武満 徹 (1930~1996)

遠い呼び声の彼方へ!(1980)(約15分)

 武満徹の協奏曲作品の中で、ヴァイオリンを独奏楽器にもつ《遠い呼び声の彼方へ!》と、琵琶(びわ)、尺八を独奏楽器にもつ《ノヴェンバー・ステップス》は、最も対照的な作品と言えるかもしれない。《ノヴェンバー・ステップス》のオーケストラ・パートは、個々の奏者の単位に分割されて群的で衝撃的な響きを発するのに対し、《遠い呼び声の彼方へ!》のオーケストラ・パートでは、和声的な響きが支配している。そのような違いは、独奏楽器それぞれの特性をオーケストラの響きに反映させたゆえであろう。その点では、両作品を作曲する武満の態度に違いはないと言える。武満は《ノヴェンバー・ステップス》のプランを「琵琶と尺八の音が、オーケストラに水の輪のようにひろがる」と語り、《遠い呼び声の彼方へ!》については「多くの協和音が響いている海、調性の海を設定する。その響きの海に、独奏ヴァイオリンが流れこんで行く」と語っている。水のイメージを重ねたオーケストラに独奏楽器が投じられるという構想においても両作品はむしろ近い関係にある。
 《遠い呼び声の彼方へ!》において武満は、海(Sea)の綴りに当たるミ♭(es)─ミ(e)─ラ(a)のモチーフの上方にド♯─ファ─ラ♭の音符を加えたミ♭─ミ─ラ─ド♯─ファ─ラ♭という6音の音階と、それを反行形にしたラ♭─ソ─レ─シ─ファ♯─ミ♭の6音の音階を用いている。海のモチーフをもとに音を広げようとする構想なのだろう。《遠い呼び声の彼方へ!》のオーケストラ・パートは、各声部の旋律進行を浮かび上がらせて、声部の多層的なひだが響きあう協奏の場を作り出している。

作曲年代:1980年
初演:1980年5月24日、東京文化会館、「民音現代作曲音楽祭」にて尾高忠明指揮東京都交響楽団、アイダ・カヴァフィアンの独奏

(楢崎洋子)