コダーイ (1882~1967)

組曲「ハーリ・ヤーノシュ」(約23分)

 「民族の独自性を消し去った上での相互理解か、保った上での相互理解か。《ハーリ組曲》はどこでも理解してもらえる、純粋にハンガリー的だというのに」。
 ゾルターン・コダーイが晩年に書き留めた言葉だ。民族の文化アイデンティティを守り通すことで、はじめて国際的に通用するような普遍性に到達できる。まさにこのような確信があったからこそ、彼は一生をかけて音楽のハンガリー性を追い求め続けることができたのだろう。
 《組曲「ハーリ・ヤーノシュ」》はそんな彼にとって、まさに「自信作」だった。物語は19世紀の退役兵を主人公とする、一種の法螺(ほら)話。農村の民謡だけでなく、ロマの楽師たちの奏でる「ヴェルブンコシュ」もここでは素材として取り込まれている。民俗的な打弦楽器ツィンバロンを用いていることからも察せられるように、この音楽はさまざまな「ハンガリー的」な要素を組み合わせるようにしてつくられているのだ。その一方でモダンな和声法や管弦楽法もきっちりとふまえているのだから、この作品が初演後たちまち国際的な演奏会のレパートリーに定着したのもうなずけよう。
 なお、歌芝居『ハーリ・ヤーノシュ』は1926年にブダペストで初演されているが、本作品はそれを演奏会のために構成し直したものである。

 第1曲〈前奏曲:おとぎ話は始まる〉 歌芝居冒頭の音楽。短い序奏の後、民謡風の主題がゆっくりと展開していく。
 第2曲〈ウィーンの音楽時計〉 ハーリはウィーンにやってくる。管楽器・打楽器・ピアノを用いたこの音楽は、華やかな帝都の情景を描いたもの。
 第3曲〈歌〉 ハンガリー民謡《ティサ川の向こう、ドナウ川を越えて》をもとにした音楽。
 第4曲〈戦争とナポレオンの敗北〉 ハーリの活躍を描く。自由な3部形式で書かれており、中間部は行進曲のパロディとなっている。
 第5曲〈間奏曲〉 付点リズムを多用した、ヴェルブンコシュ風の音楽。
 第6曲〈皇帝と廷臣たちの入場〉 戦勝に沸くオーストリア宮廷の人々を描く。ファンファーレの後、五音音階の旋律とともに曲は華やかに閉じられる。

作曲年代:1927年1~3月
初演:1927年3月24日、バルセロナ・リセウ劇場にて、アンタル・フライシャー指揮、バルセロナ・パブロ・カザルス管弦楽団

(太田峰夫)