プロコフィエフ (1891~1953)

組曲「キージェ中尉」作品60 (約20分)

 1932年、まだパリとソ連を行き来していたプロコフィエフに、誕生したばかりのトーキー映画の企画が舞い込む。題材は18世紀末の皇帝パーヴェル1世の逸話に基づいたもの。癇癪(かんしゃく)もちで知られた皇帝の聞き間違いから架空の主人公「キージェ中尉」が誕生してしまい、その冒険譚(たん)が臣下たちによって次々にでっち上げられるが、最後はキージェが不慮の死を遂げたことにして一件落着する、という物語である。シナリオ作者のユーリイ・トゥイニャーノフは文芸理論家としても著名であり、ゴーゴリ的な官僚主義への風刺が随所に盛り込まれている。《古典交響曲》で18世紀音楽の優れたパロディを披露したプロコフィエフは、その音楽にうってつけの存在であった。この頃のプロコフィエフは前衛音楽の行き過ぎを反省し、芸術音楽の品位を落とさずに大衆にアピールできる「新たな単純性」を模索していたが、映画音楽の作曲はその絶好の機会となり、ソ連帰国への重要なステップとなっていく。

第1曲〈キージェの誕生〉 ほのぼのした舞台裏のファンファーレに続き、愛らしい行進曲が展開する。時折差し挟まれる短調の民謡風の主題はキージェの象徴である。
第2曲〈ロマンス〉 「灰色の小鳩が嘆き」という俗謡の歌詞にプロコフィエフが付曲したもので、映画ではプロコフィエフの最初の妻リーナ(ソプラノ歌手)が録音したという。
第3曲〈キージェの結婚〉 式の開会を告げる厳かな金管の序奏につづき、客をもてなす余興の歌がコルネット独奏で奏される(もちろん、花婿は不在なのだが……)。
第4曲〈トロイカ〉 バラライカを模した管弦楽に伴われ、鈴の音高くシベリアの雪原を疾駆するトロイカの様子が描かれる。
第5曲〈キージェの葬式〉 キージェの生涯を振り返りつつ、これまでの主要旋律が映画のモンタージュのように回想され、冒頭のファンファーレが静かに幕を閉じる。

作曲年代:[映画音楽]1933年、[組曲]1934年
初演:1934年12月21日、作曲者自身の指揮、ラジオ放送にて

(千葉 潤)