トルミス (1930~2017)

序曲 第2番(1959)(約11分)

 ヴェリヨ・トルミスは、パーヴォ・ヤルヴィと同じくエストニア生まれの作曲家である。同世代のアルヴォ・ペルトとともに国際的な評価を得て、現在ではエストニアを代表する作曲家のひとりに数えられている。おもに無伴奏合唱曲の創作で知られるトルミスだが、その音楽は伝統的なエストニア民謡から強い影響を受けている。というよりも逆に、トルミスによると「私が民謡を用いるのではなく、むしろ民謡の方が私を利用しているのだ」という。トルミスにとってエストニア民謡は、太古の記憶を呼び起こす音楽的アウラ(霊気)の宝庫であり、その精神とイディオムを探究することこそ、音楽創作という行為に他ならなかった。
 したがってトルミスの音楽は、民謡のように言葉を伴う声楽曲において最も本領が発揮された。その一方、数少ない「純粋な」管弦楽曲の創作でも、彼は何らかの具体的想念、あるいは政治的メッセージをその内に織り込んだとみられている。生涯にわたり「音楽のための音楽」という考え方に立つことのなかったトルミスの姿勢は、彼が敬愛するショスタコーヴィチのそれと重なり合う。ちなみに学生時代、トルミスは「ショスタコーヴィチの創作活動が私に与えた影響は計り知れない」と述べている。
 トルミスの代表的な管弦楽曲《序曲第2番》も、基本的にそうした考え方に貫かれている。曲は激しく急速なA部分(アレグロ・アジタート)、静かで緩徐なB部分(ピウ・トランクイロ)、そして再びA部分が回帰するという3部形式が取られている。堅固な骨格を持つダイナミックな音楽である。
 作品には大きく2つの特徴が見出されよう。ひとつは、民謡のイディオムを巧みに応用したトルミス流の「反復手法」。その力点は明らかにリズムにおかれており、力強いリズム音型を繰り返し用いることで、シャーマニックな魔術的効果を生み出している。そしてもうひとつは、執拗(しつよう)なリズム音型の上に現れる「歌謡的な美しい旋律」。それら両要素が絶妙に相まって、《序曲第2番》は独特な表現世界を築き上げていく。

作曲年代:1959年
初演:1959年、ローマン・マトソフ指揮、タリンにて

(神部 智)