ドビュッシー (1862~1918)

交響詩「海」(約25分)

 《海》は、クロード・ドビュッシーの代表的な管弦楽曲。幼い頃船乗りになる夢を抱いたドビュッシーにとって、「海」はとくに身近な存在だったにちがいない。1902年に念願の《ペレアスとメリザンド》の上演を果たし、一時脱力状態に陥った彼を再び奮起させるのに恰好の題材だったろう。しかし《海》の創作は、私生活上、感情の嵐ともいえる時期と重なる。ドビュッシーは《海》を手がけた頃、作曲の弟子の母親エンマ・バルダックに急速に惹(ひ)かれていく。ふたりのことを知った妻リリーがピストル自殺を図り、一大スキャンダルとなる。この間彼は黙したまま、ずっと抱えていた《海》の作曲に没頭した。ようやく完成したのは、伝統的形式の枠組みからあふれ出す響きの想像力が音楽になったといえるような新しい作品であった。1905年7月に出版されたオーケストラ譜の表紙には、葛飾北斎の版画『富嶽三十六景』の1枚「神奈川沖浪裏」のデザインが使われた。
 第1楽章〈海の夜明けから真昼まで〉 かすかな音の層の中から躍動的なチェロの動きとヴィオラの上行音列が立ち昇り、ここから様々な要素が紡ぎだされる。そしてあたかも音が自分の内部から推進力を得るかのように構成されていく。やがて一貫して聞かれる不変の循環主題がイングリッシュ・ホルンとトランペットに現れ、音響空間を広げる。
 第2楽章〈波の戯れ〉 トレモロ上の細かな分散和音、トリル、和音の細かな連打、走句などがたえず交代する。この不断の生成こそタイトルにふさわしい。
 第3楽章〈風と海との対話〉 まず低音弦の一陣の風のような楽句とオーボエの半音の動きが対比されたあと、トランペットで不動の循環主題が響き渡る。それから第1楽章の終わりに現れたコラール風の楽句が遠くに聞こえ、再び凄(すさま)じい“対話”が行われる。そしてほぼ全金管がコラールを高らかに響かせるのを合図に、すべての要素と縮小された循環主題がうたい上げられる。

作曲年代:1903年8月~1905年3月
初演:1905年10月15日、ラムルー演奏会、カミーユ・シュヴィヤール指揮

(松橋麻利)