ベートーヴェン (1770~1827)

ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58 (約32分)

 ベートーヴェンは5曲のピアノ協奏曲を完成させたが、とくに《第4番》と《第5番》はピアノ協奏曲の歴史において、大きな転換点を示している。時代が古典派にはいるとソロ・コンチェルトが主流となるなかで、ベートーヴェンは、バロック時代の書法に立ち返ってオーケストラと独奏楽器とのより多彩な関係を模索した。この《ピアノ協奏曲第4番》は、これまでのような管弦楽による長い前奏を置かず、ピアノ独奏で開始するだけではなく、管弦楽とピアノ独奏とのより有機的な融合を図っている。
 この作品は、1807年3月にロプコヴィツ侯爵邸での予約演奏会で作曲者自身の独奏で初演された後、1808年12月22日、《交響曲第5番》、《交響曲第6番》、それに《交響曲第9番》の第4楽章の原型として知られる《合唱幻想曲》などの初演とともに作曲者の独奏で再演された。作品はベートーヴェンの良き理解者で、パトロンのルドルフ大公に献呈された。

 第1楽章 アレグロ・モデラート、ト長調、4/4拍子。オーケストラ前奏を置かずピアノ独奏で開始し、ピアノの奏する同音連打の動機は、《交響曲第5番》の「運命の動機」とも類似している。ピアノ独奏はオーケストラと一体となって優美で気品あふれる楽想を繰り広げる。この楽章に関してベートーヴェンはカデンツァを2つ作曲している。ひとつは100小節のカデンツァ、もうひとつは51小節のカデンツァで、ともに同音連打の動機を生かしている。
 第2楽章 アンダンテ・コン・モート、ホ短調、2/4拍子。72小節の短い楽章である。弦楽器のみの編成によるオーケストラがメランコリックで虚(うつ)ろな印象を与える主題を奏すると、ピアノが静かにそれに応答し、オーケストラとピアノとの対話が始まる。ピアノ独奏とオーケストラの生み出す対話的な表現は独創的で、ピアノ独奏のメランコリックで悲哀に満ちた旋律に対して、弦楽器群の奏する厳粛なユニゾンはオペラや劇の情景を思わせる。楽章はフェルマータで音を長く伸ばしつつ、第3楽章に続く。
 第3楽章 ロンド:ヴィヴァーチェ、ト長調、2/4拍子。第2楽章のメランコリックな雰囲気を吹き飛ばすような、躍動的なロンド楽章で、スキップするようなロンド主題を軸に爽快に進行する。この楽章のためにベートーヴェンは35小節からなるカデンツァをひとつ書き残している。

作曲年代:1804~1806年
初演:1807年3月、ロプコヴィツ侯爵邸でベートーヴェンのピアノ独奏により(予約演奏会)。1808年12月22日、アン・デア・ウィーン劇場でベートーヴェンのピアノ独奏により再演(公的初演)

(西原 稔)