ストラヴィンスキー (1882~1971)

バレエ音楽「ミューズの神を率いるアポロ」(約30分)

 1927年、イーゴリ・ストラヴィンスキーは首都ワシントンのアメリカ議会図書館での公演のためにバレエ音楽の委嘱を受けた。条件は小ホールのための編成、時間は30分、テーマは自由。《エディプス王》(1927年)に続いて彼はギリシャ神話を題材に選択し、《ミューズの神を率いるアポロ》を作曲した。この新古典主義時代のバレエ作品で、ストラヴィンスキーは《春の祭典》などとは異なる古典的なバレエの伝統への回帰を目指した。音楽的にも全音音階による対位法的書法や18世紀の付点リズム、ロシア民謡に拠(よ)らないメロディの探求などが行われている。このメロディの探求は、弦楽器のみという楽器編成とも相まって、管楽器の補助的役割を担ってきた弦楽器にイタリア的な歌を復活させる結果をもたらした。
 自伝のなかでストラヴィンスキーは、あらすじについて書いている。「私が題材に選んだのは『ミューズの司祭、アポロ』、すなわちミューズたちにさまざまな芸術の手引をする司祭としての神である。私はミューズたちをカリオペ、ポリュムニア、テルプシコレの3人とした。(中略)アポロから書板と鉄筆を受け取るカリオペは詩とリズムの法則を、指を口にあてているポリュムニアは身振りによる演技の術をあらわす。(中略)最後にテルプシコレは詩のリズムと身振りの雄弁さとを兼ね備え、世界に踊りを教えるものとして司祭アポロの横に名誉ある位置を占める」。全2場からなり、以下のように展開する。
 第1場ではアポロの誕生が描かれる。第2場ではアポロのソロ・ダンスの後、3人のミューズたちが登場し、カリオペは書板を、ポリュムニアは仮面を、テルプシコレは竪琴をそれぞれアポロから受け取って踊る。アポロとテルプシコレの2人によるパ・ド・ドゥーののち、最後はアポロが3人のミューズたちを率いてパルナッソス山の階梯(かいてい)を上って終わる。

作曲年代:1927年7月~1928年1月、ニースで作曲。1947年改訂。クーリッジ財団の委嘱
初演:1928年4月27日、アメリカ議会図書館。ハンス・キンドラー指揮。フランス初演は1928年6月12日、作曲者による指揮、ディアギレフのロシア・バレエ団によりサラ・ベルナール劇場で行われた

(三橋圭介)