ヤナーチェク (1854~1928)

タラス・ブーリバ (約23分)

 ニコライ・ゴーゴリの小説『タラス・ブーリバ』は19世紀ロシア文学の名作のひとつ。ポーランド・リトアニア共和国時代(1569~1795)のウクライナを舞台に、ポーランド人の支配に反旗を翻したコサック隊長ブーリバと彼の息子たちの活躍を、叙事詩風に描いている。
 小説の中でコサック兵は「ロシアの魂」の権化として美化される。研究者たちが指摘するように、レオシュ・ヤナーチェクの汎スラヴ主義的な思想傾向からすれば、彼がロシアの第一次世界大戦への参戦から、作品の着想を得たことは十分にありえよう。本作品は中断期間を経て、1918年に書き上げられた。

 第1曲〈アンドレーの死〉 次男アンドレーはポーランド人総督の娘と恋に落ちて仲間を裏切るが、コサック兵の攻撃を受け、父親に射殺される。曲は序奏、前半部(アダージョ)、後半部(アレグロ)の3部分からなっている。序奏のオルガンの奏楽と鐘の音は、おそらく(寝返りの現場である)カトリック寺院の情景と関連しているのだろう。後半部は金管楽器・打楽器の活躍する戦闘の音楽。アダージョ部分の回想を経て、曲は力強く閉じられる。
 第2曲〈オスタップの死〉 長男オスタップは勇敢なコサック兵として頭角を現すが、ポーランド軍に捕らえられ、殺害される。曲は落ち着いた部分と速い部分の交代からなっており、後半部では民謡風の主題がのびやかに歌われるが、やがてアレグロの動機が介入し、すべてをかき消してしまう。激しいクライマックスの中で、小クラリネットが断末魔の調べを聞かせる。
 第3曲〈予言、そしてタラス・ブーリバの死〉 捕らえられたタラス・ブーリバは火刑台の上からロシアの輝かしい未来を予言する。序奏と主部で同じ主題が用いられるのに対し、結尾部で民謡風の旋律が新たに現れ、壮大なクライマックスが築かれるのは、おそらく「予言」の描く未来像とも関連しているのだろう。

作曲年代:1915年~1918年3月29日
初演:1921年10月9日、ブルノ国立劇場、フランティシェク・ノイマン指揮、ブルノ国立劇場管弦楽団

(太田峰夫)