バーンスタイン (1918~1990)

セレナード(プラトンの『饗宴』による)(約30分)

 ミュージカル《ワンダフル・タウン》(1953年)の成功により、指揮者のみならず劇音楽家としても多忙を極めていたバーンスタインだったが、1954年の夏、世の喧騒(けんそう)から逃れるべく別荘に篭(こも)って2つの作品に着手した。ひとつはその序曲がよく知られている劇音楽《キャンディード》(1956年)。もうひとつが、この《セレナード》である。
 バーンスタインは、賢人たちが愛の諸相について対話するプラトンの『饗宴』を再読し、楽曲の着想を得た。彼によれば『饗宴』は単なる標題ではなく、楽曲の形式に深く関わっている。先の話者が述べた事柄を受け継ぎ発展しゆく『饗宴』での賢人たちの対話形式は、先行する楽章のある部分を拡張しながら展開する5つの楽章の関係に重ねられる。各楽章のタイトルには『饗宴』に登場する賢人たちの名が付けられている。

第1楽章 パイドロス、パウサニアス。レント、アレグロ・マルカート。ヴァイオリン独奏による愛の神エロスへの賛歌で幕開ける。この愛の旋律はバーンスタインに特徴的なモチーフ、3度跳躍+7度跳躍からなり、曲全体を通してさまざまなかたちに変容する。
第2楽章 アリストファネス。アレグレット。アリストファネスは愛にまつわる夜伽(よとぎ)の語り部役。ヴァイオリン独奏の囁(ささや)くような旋律に弦楽が応答し、カノンに発展する。
第3楽章 エリュクシマコス。プレスト。エリュクシマコスは愛と身体との調和について、科学的な視点から鋭く切り込む。叙情的な愛の旋律が一転して、疾走するパッセージへと姿を変える。
第4楽章 アガトン。アダージョ。愛のあり方を説くアガトンの語りは賢人たちの心を動かす。3部分の歌謡形式。弦楽の3度の響きから愛の旋律が浮かびあがる。
第5楽章 ソクラテス、アルキビアデス。モルト・テヌート、アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ。アガトンから受け継いだソクラテスの荘厳な語りを泥酔したアルキビアデスが妨害し、狂乱の宴(うたげ)へ。前半は第4楽章の性格を受け継いでいるが、後半はスウィングのリズムの激しいロンドに。ジャズを前面に出した意表をつく結末によって、バーンスタインは古代ギリシャと20世紀アメリカとの隔たりを一瞬にして乗り越えてしまったのだ。

作曲年代:1954年
初演:1954年9月9日、フェニーチェ劇場(ヴェネチア)、レナード・バーンスタイン指揮、アイザック・スターンのヴァイオリン独奏、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

(高橋智子)