ジョン・アダムズ (1947~)

アブソリュート・ジェスト(2011)[日本初演](約25分)

 タイトルの「Jest(戯れ・冗談)」が、モーツァルトのユーモアを交えた《音楽の冗談》(K.522)に根ざしていることは間違いない。だがアダムズによれば、「jest」の語源であるラテン語の「gesta(著しい行為)」という意味も含まれているという。この「著しい行為」とは、彼が親しんできたベートーヴェンを、自身の音楽に練り上げるという生真面目で「純粋な戯れ」である。アダムズはポスト・ミニマルという反復的な和声と、反復的なリズムの流れのなかにベートーヴェンの断片を素材として織り込み、ベートーヴェンを逆構築する。言い換えるならベートーヴェンの仮面をかぶったアダムズの変奏(=変装)の見事な労作である。
 単一楽章からなる約25分の作品で、ベートーヴェンの断片は主に後期作品から選択されている。アダムズが「音楽的タトゥー」と呼ぶいかにもそれとわかる刻印は、《交響曲第4番》《第7番》《第8番》《第9番》などの動機で、そこに弦楽四重奏によって《弦楽四重奏曲第14番》《第16番》《大フーガ》などの動機が展開される。なかでもイタリア語で「冗談」を意味するスケルツォ楽章が意図的に選択されているが、しかしいわゆる引用ではない。たとえば、冒頭、《第9》第2楽章冒頭を予感させる反復的なリズムのなか《第7番》第2楽章の旋律の骨格が現れる。そして四重奏の緊迫したリズム動機と共にあのティンパニの一撃へと至る。四重奏も《弦楽四重奏曲第14番》《第16番》《大フーガ》の断片が変形、再結合され、オーケストラ曲と多層化することでアダムズ自身の音楽として吸収されている。《第14番》のプレストの劇的な展開の後、無調的にすら思える《大フーガ》などから《交響曲第4番》第3楽章の弦楽によるテーマを経てフィナーレへと至る。そこでは《ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」》の冒頭の和声進行がフルスピードで突進していく。

作曲年代:2011年、改訂2012年
初演:2012年3月15日、サンフランシスコ交響楽団の100周年を記念したコンサートで、指揮ティルソン・トーマス、セント・ローレンス弦楽四重奏団、サンフランシスコ交響楽団 [改訂版初演]2012年12月1日、マイアミ、作曲者自身の指揮、セント・ローレンス弦楽四重奏団、ニュー・ワールド交響楽団

(三橋圭介)