ドヴォルザーク (1841 - 1904)

チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 (約42分)

 「もう一度ヴィソカー村にいられたら!」
 1895年1月、音楽院の仕事でアメリカに滞在していたドヴォルザークは、ボヘミア地方の別荘への思いを手紙の中でこのように綴(つづ)っている。
 彼が《チェロ協奏曲》に着手したのはニューヨーク滞在中のこと。最終的にプラハに戻るまでの間にゆっくりと書き進められたこの作品に、中東欧の民俗音楽の特徴(たとえば第1楽章における付点音型の多用)が見て取れるのは、こうした「ホームシック」とも無縁ではないだろう。
 第2楽章と第3楽章で《歌曲「私にかまわないで」》(作品82-1)の旋律が引用されるのは、作品完成の直前に他界したカウニッツ伯爵夫人がこの歌曲を好んでいたことによる。妻の姉でもあったこの女性に作曲家が親しい感情を抱いていたことはよく知られる通り。ドヴォルザークは義兄のカウニッツ伯爵とも親しくなり、前述の別荘を伯爵から購入している。
 以上をふまえると、くだんの手紙の発言には自分が勝ち取ってきた世界への愛惜の念が含まれていたことが見えてくる。作曲家が第3楽章の構成にこだわり、友人のヴィハンが作ったカデンツァを作品に組み込むことを拒否したのも、この文脈からならば理解できるはずである。

第1楽章 アレグロ、ロ短調、4/4拍子、ソナタ形式。提示部では前半の素材が後半にもう一度、独奏付きで示される。展開部は第1主題を素材とするもの。再現部は第2主題から始まる。独奏チェロの華々しい楽句が続いた後、曲は晴れやかに閉じられる。
第2楽章 アダージョ・マ・ノン・トロッポ、ト長調、3/4拍子、3部形式。中間部では独奏チェロが歌曲の旋律を朗々と歌う。
第3楽章 アレグロ・モデラート、ロ短調、2/4拍子、自由なロンド形式。全体の構成はABACDCAEA+結尾部と図式化できる。結尾部では第1楽章第1主題と歌曲の旋律が回想される。

作曲年代:1894年11月8日に着手、1895年6月11日に完成
初演:1896年3月19日、ロンドンのフィルハーモニー協会の演奏会にて。レオ・スターンの独奏、作曲者自身の指揮による

(太田峰夫)