武満 徹 (1930 - 1996)

系図(ファミリー・トゥリー)― 若い人たちのための音楽詩(1992)(約25分)

 「武満の書いた最もロマンティックな作品であり、官能に満ちて静かな深みをたたえている」(1995年6月、『ジャパンタイムズ』紙より)。ニューヨーク交響楽協会創立150周年記念として委嘱され、1995年4月20日、ニューヨーク・フィルハーモニックによって初演された《系図》は、晩年の武満徹に共通する詩情あふれる作風が顕著に表れた一曲である。この曲を貫く甘美な響きは、「家族」というテーマ選択と無関係ではないと思われる。
 武満は友人の指揮者ズービン・メータから、子供のための音楽の作曲に興味はないかと問われ、あらためて家族について考えるきっかけを得たという。武満の若い頃とは比べものにならないくらい人工的かつ雑多な音に囲まれている現代の若者。一見何不自由なく暮らしているものの、家族の存在がこれまでになく揺らいでいる現代社会。武満はこういったある種の危機にある家族が、もっと外へ向かって自由に対話してほしい、それには愛が必要だと、この曲の日本初演時にプログラムで述べている。そうした思いが極限まで甘くかつどこか切なさを秘めた音楽へと結実したのではないかと思われる。
 武満は谷川俊太郎の詩集『はだか』から順不同に選んだ6遍の詩、「むかしむかし」「おじいちゃん」「おばあちゃん」「おとうさん」「おかあさん」「とおく」をテキストに用い、これらの詩を語るナレーターは、10代半ばの少女が望ましいとしている。オーケストラにアコーディオンが加わるのもユニークで、この楽器の郷愁を誘うような独特なパッセージが、曲にほどよいアクセントをもたらしている。

作曲年代:1992年
初演:1995年4月20日、ニューヨーク・エイヴリー・フィッシャー・ホールにて。サラ・ヒックス(語り)、レナード・スラットキン(指揮)、ニューヨーク・フィルハーモニック

(伊藤制子)