ラフマニノフ (1873 - 1943)

ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18

 期待の若手作曲家として華やかなデビューを飾るはずだった《交響曲第1番》の初演(1897年)は、その後数年間の創作上の停滞を招いてしまうほどの大失敗に終わるが、著名な精神科医ニコライ・ダーリ博士の催眠療法を受けて徐々に回復し、この《協奏曲》の大成功によって作曲界に見事カムバックを果たす。本作品の作曲の経緯はいかにもロマンチックだが、それに負けないほど、この協奏曲独特の美しさは際立っている。従来にはない新機軸が随所に込められているのに、あまりにも流麗に聞こえるため、その工夫が注目されることは少ない。だがいかにも自然に魂から流れ出たように聞こえる音楽こそ、実は才能と技術の賜物(たまもの)なのだ。

第1楽章 モデラート ハ短調 2/2拍子。ソナタ形式。ピアノ独奏から開始される協奏曲といえばベートーヴェンの《第4番》が有名だが、こちらではラフマニノフ自身の前奏曲《鐘》の終結部の引用が、まるで叙事詩の始まりを告げるモノローグのような効果を上げる(しかも最後にユニゾンで弾かれる4音は全曲の循環動機となる)。第1主題は短い節回しを呟(つぶや)くように繰り返しながら次第に成長していくラフマニノフ独特の旋律で、オーケストラのみで提示されるのに対し、第2主題はピアノ独奏が分担することで各々の対照性が際立つ。緻密(ちみつ)な動機展開を経て第1主題は重々しいマーチで再現され、第2主題は弦楽器のトレモロを背景にしたホルン独奏が寂々と奏する。古典派のような独立したカデンツァはない。
第2楽章 アダージョ・ソステヌート ホ長調 4/4拍子。弦楽器による冒頭部分は尊敬するチャイコフスキーの《交響曲第5番》第2楽章へのオマージュだろうか。3部形式ながら、中間部の訴えかけるような主題は、主部の旋律から発展したもの。ピアノとオーケストラが一体化したコーダの繊細な美しさは無類だ。
第3楽章 アレグロ・スケルツァンド ハ短調~ハ長調 2/2拍子。対照的な2つの主題(第1楽章各主題と動機的に対応している)が交替しながら発展する自由な形式。グランド・ピアノの上から下まで縦横無尽に駆け巡る華やかなカデンツァが、壮大華麗な第2主題の再現を導きだす。

作曲年代:1900年~1901年4月
初演:1901年11月9日(旧ロシア暦10月27日)、作曲者自身の独奏、アレクサンドル・ジロティ指揮、モスクワ・フィルハーモニー協会交響楽演奏会にて

(千葉 潤)