デュティユー (1916 - 2013)

チェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」(1970)

 1916年にフランスのアンジェで生まれたデュティユーは、現代フランス音楽において、独特な位置にある作曲家である。パリ音楽院に学び、ローマ賞の大賞受賞等、輝かしい業績を持つが、エコール・ノルマル音楽院やパリ音楽院で一時期教鞭を執りはしたものの、アカデミズムに染まることはなかった。また、同時代のさまざまな前衛的傾向、セリー主義や電子音響、偶然性の音楽などに対しても距離を置いていた。2013年5月22日、逝去。巨匠と崇められることをやんわりと拒むように、あくまでも一作曲家として真摯に創作へと向き合い、最後まで現役の作曲家であり続けた。
 デュティユーは常に新しい響きを探求しており、どれほど多くの楽器が用いられた密度の濃い響きの中にも、独特の透明感がある。また、記憶や時間とも結びついた形式が特徴的で、ある主題や音素材が、あからさまな反復や変奏とは異なる形で姿を変え、相互に浸透しあっている。こうした傾向は《遥かなる遠い世界》にも表れている。本作品はロストロポーヴィチの委嘱により作曲された。作品名はボードレールの詩集『悪の華』所収の「髪」から採られている。デュティユーは、恋人のゆたかな髪に広大な世界を見出すというモチーフに惹かれたという。また、各楽章の副題にも、ボードレールの詩が引用されている(詳細は下記参照)。詩の象徴的な世界観が、チェロという楽器にこそふさわしいと考え、発想源にしたそうだ。

第1楽章「謎」はカデンツァ風の序奏で主題が形作られた後、4つの変奏が展開される。叙情的な旋律が歌われる第2楽章「まなざし」は、主題の再現によって終結し、激しく熱気に満ちた第3楽章「うねり」がこれに続く。第4楽章「鏡」は反射作用や鏡像がモチーフとなっている。ハープによって提示された「鏡のコード」が管弦楽とチェロ独奏に反射して姿を変えてゆく。第5楽章「賛歌」では、新たな要素に加えこれまでの楽章の要素が変容して表われ、最後はチェロ独奏により静かに閉じられる。

第1楽章 謎
 この不思議で象徴的な自然の中で
第2楽章 まなざし
 おまえの緑の瞳から流れる毒
 私の魂が震え
 さかさまに映る湖
第3楽章 うねり
 黒檀の海よ、おまえの中にはまばゆい夢がある
 帆や漕ぎ手たち、長旗、マストの夢が
第4楽章 鏡
 私たちの心は二つの大きな焔となって
 合わせ鏡になっている私たちの精神に
 二つの重なり合う光が映るだろう
第5楽章 賛歌
 夢を持ち続けよ
 賢人たちの夢は狂人たちの夢ほどに美しくはないのだから

作曲年代:1967年~1970年
初演:1970年7月25日、エクサン・プロヴァンス音楽祭、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ独奏)、セルジュ・ボド(指揮)、パリ管弦楽団

(成田麗奈)