NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

矢内陽子

矢内陽子

コントラバス

やない・ようこ

群馬県出身。洗足学園音楽大学弦楽器コースを経て同大学大学院を首席で卒業。在学中は洗足学園音楽大学フィルハーモニー管弦楽団とコントラバス協奏曲を共演。2013年10月1日入団。コントラバスを矢吹けさみ、金岡秀典、井戸田善之の各氏に師事。

 

後輩達の希望になりたい

華恵

N響に入られてまだ間もないですが、いかがですか?

 

矢内

毎日が充実しています。新曲の譜読みは大変ですが、知らない曲を知っていくのがとても楽しいですね。

 

華恵

コントラバスとはどのように出会われましたか?

 

矢内

中学校の吹奏楽で始めました。

 

華恵

コントラバスを選んだのはなぜですか。

 

矢内

正直に言っていいんですか? 演奏しながらしゃべれる楽器だからなんです。(吹奏楽の中では)打楽器とコントラバスだけは、管楽器と違って口がふさがらないのでおしゃべりできるのがいいなと思って。

 

華恵

初めて弾いたときの感想は?

 

矢内

身長が140センチ台だったのであまり手が届かなかった。でも、身体に振動が伝わってくる感覚が楽しいなと感じましたね。

 

華恵

その後コントラバスを専門的にやっていこうと思われたのはいつですか?

 

矢内

高校3年生です。中学校の吹奏楽部に指導にいらしていた先生から「うちの高校に来ないか」と誘いを受けたんです。元々医療関係に進みたかったので、その商業高校で医療事務の勉強をしながら吹奏楽もできる、家からもそんなに遠くないというメリットで入学して、やがて専門の先生に習い始めて、高校3年生で医療事務をあきらめて音大に行こうと決めました。

 

華恵

医療に携わる道に未練は残りませんでしたか?

 

矢内

ずっと最近まで、音楽でだめだったら医療の方向に戻ろうと考えていました。女性でコントラバス奏者の道は厳しいので。

 

華恵

具体的にどう厳しいんですか?

 

矢内

男性との筋力の差ですね。筋肉不足で、まず弦を押さえるという行為が大変でした。腕の筋肉がついてくれば、あとは女性であることはまったく関係ないです。ただ私は女性の中でも手が小さいので。

 

華恵

本当だ、私より小さいんですね。

 

矢内

コントラバスの人で自分より手が小さい人に出会ったことがないんですよ。「手が小さいので」と気にする女性の生徒も多いですが、比べてみると私より大きいんです。手が小さいなら、その使い方を工夫すればいいじゃない?って生徒を励ましています。こんなに手が小さくても演奏できるという、みんなの希望になれればいいなと思います。

 

 

華恵

腕の筋肉はどうやって付けたんですか?

 

矢内

日常生活の中で鍛えられたみたいです。群馬県の田舎で育ちましたし、高校まで近いといっても片道7.5キロの自転車通学を毎日していました。小学校も徒歩で30分。吹奏楽部では腕立て伏せもしましたね。

 

華恵

N響では女性のコントラバス奏者は初めてですね。

 

矢内

その点は嬉しいです。でも目立つので注目されているらしく、よく会場でも街でも「初めての女性ですね」「テレビでも見ています」と声をかけていただきます。

 

華恵

注目されるのは苦痛じゃないですか?

 

矢内

全然気にならないです。ほかのオーケストラにも1人ずついらっしゃるかと思います。

 

華恵

女性に不向きな楽器というわけじゃないんですね。

 

矢内

そんなことはまるでありません。男性より大きな音を出す女性奏者もいらっしゃるし、楽器の大きさもいろいろあるので、別に大きいサイズの楽器を弾かなきゃいけないわけじゃないんです。N響の楽器に関してはどれも大きいですけれど。

 

華恵

女性特有の筋肉の使い方はどこで習われたんですか?

 

矢内

私は就いていた男性の先生に「先生、触っていいですか」と頼みました。その動きのための筋肉の使い方を触らせてもらって覚え、それを自分の身体の使い方に変えていきました。目的地は同じなので、自分の身体を使ってそこにどうやって到達するかということです。これだけ女の子が増えてきたので女性の先生が増えたらいいなと思いますね。

 

華恵

コントラバスを学ぶ女性の生徒は増えてきているんですね?

 

矢内

ええ。私の生徒には、男性だったら筋肉はここを使うけれど、女性の場合はここを使うといいよと、触ってもらってアドバイスをしています。女性同士なら、実際に触ってどこの筋肉が動いているとか分かってもらえますから。

 

華恵

ところで趣味は何ですか?

 

矢内

裁縫が大好きなので、夜中までミシンをずっと踏んでいたりします。ダダダーってミシンを踏んでいるとストレス発散になります。練習が済んだら、家では音楽のことはもう一切考えないんです。

 

華恵

コントラバスという男性社会の中で過ごしている反動からでしょうか?

 

矢内

いえ、楽器を弾く上で女性だからとかは一切考えないようにしています。女性であることの苦労はあるとしても気にしていたら切りがないので。自分がやりたいことだからそのために楽しみながら努力して、後輩達のための希望の存在になりたいです。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2013年11月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。