NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

稻川永示

稻川永示

コントラバス

いながわ・えいじ

岐阜県出身。桐朋女子高等学校(男女共学)卒業。桐朋学園大学卒業。2007年7月1日N響入団。西田直文氏に師事。

 

髙橋

在学中にオーディションに合格され契約楽員になられたわけですが、実際に入ってみて、想像通りでしたか?

 

稻川

全然ちがいました。学校では、本当に周りの音を聴かずに弾いていたのだなぁーと実感しました。今、あちこちにアンテナを立てフル回転で聴いています。深いところにある1つの流れを探り、最初はもうそれに遅れないようにしがみついて行ったという感じです。いかに学校では“好き勝手に”弾いていたかと……。

 

髙橋

契約団員の時期も含め1年半ぐらいが経ちましたが、同じ緊張感ですか?

 

稻川

また異なる思い入れの状態が生まれてきました。腑に落ちるようになってきました。

 

髙橋

それは曲についてですか?

 

稻川

んー、作業のプロセスというか、演奏しているその“場”において自分の頭のなかで起こっていることです。

 

髙橋

頭のなかでなにが起こっているのでしょう?

 

稻川

たとえば、ヴァイオリンがこうなっているんだなぁとキャッチし、それではコントラバスはこうなるのだと。
オーケストラのなかの流れについて、僕のなかで大学時代には不明瞭だったのかもしれません。今思うと、みんなもがむしゃらに弾いているという感じがしました。

 

髙橋

譜面の見方も変わってきましたか?

 

稻川

あっ、変わってきました!大学時代、ボーイングは多くの場合、強拍ならダウン・ボーイング、弱拍ならアップなど、モティーフごとに行っていました。しかしN響に入ってみたら、それは音楽的な流れのなかで決められていくもので、もっと息の長い流れにおいて判断されていました。同じ曲でも、ちがって見えてきました。

 

髙橋

先輩方のご指導は?

 

稻川

教えてくださることも多いですが、楽しい方ばかりで(笑)。ベース・パートって、自分たちでいっしょにご飯を食べに行ったりすることが多くて。

 

髙橋

参考になることはありますか?

 

稻川

はい。人生の厳しさとか、社会ってこうなんだとか。

 

髙橋

在学中に社会人になったばかりということですものね。楽器に集中的に携わったのは、中学の吹奏楽部でのコントラバスが初めてですか?

 

稻川

いいえ。小さい時にピアノを。幼い頃自分でやりたいと言って習い始めたのだと思いますが、自分でやりたいと言ったであろう手前、もういやだとは言い出せなくて、続けていました。

 

髙橋

ご家族に音楽家がいらしたのですか?

 

稻川

いいえ。父はとても音楽が好きですが、歯科技工士です。

 

髙橋

中学の吹奏楽部の顧問の先生がとても熱心だったとか?

 

稻川

僕も完全に感化されていました。5時に行って、学校の門が開くのを待っていました。

 

髙橋

5時って、朝の5時?でも楽しかったんでしょうねぇ。仲間も皆来ているわけですし。

 

稻川

そうですね。ただ我を忘れてコントラバスだけでしたので。記憶をたぐってもさらっていた記憶ばかり出てきます。

 

髙橋

どんな曲を練習してたんですか?

 

稻川

最初に弾いた曲は、JUDY AND MARYの《くじら12号》でした(実は流行に疎かったので、どんな曲か覚えていない……)。

 

髙橋

はー(すみません、よく知らない……。世代がちがいますね……)。

 

稻川

ベース・パートが難解で、夢中で弾いていました。

 

髙橋

これからどんなことをしたいですか?

 

稻川

なんでもしたいです。いわゆる“ライヴ”というものも。メタル・ロックの会場のような雰囲気で。同世代の方にもっと聴いてもらいたいです。ライヴハウスに足を運ぶ感覚で来てもらえたらと思います。クラシック以外のミュージシャンが、どのような意識で音楽をしているのか、コミュニケートしたいです。

 

髙橋

お休みの日にはどのように?

 

稻川

いろいろします。本を読むのも好きです。

 

髙橋

最近ならどなたの著書が好きですか?

 

稻川

加納朋子とか。あまり人が亡くならないミステリーです。

 

髙橋

定期の曲の練習もするのかしら?

 

稻川

それもですが、友人とコントラバス2本で即興して録音し、良い箇所があったら書き出してみたり。1人でさらっていても、そっちに行ってしまうことがあります。

 

髙橋

そんな曲を人前で披露することは?

 

稻川

いいえ。してみたい気持ちが、恥ずかしさとともにありますが。楽譜にはすることがあります。和声をつけたりして、譜面に立ち上がらせると、その過程で、曖昧だった部分が見えてきたりします。

 

髙橋

他にはなにかなさいますか?

 

稻川

革細工、木工細工、工作が好きです。最近、ミシンを購入しましたので、カーテンやピローケースを縫ったりします。

 

髙橋

オケのなかでだけでなく、本当に多くのことにアンテナを広げているのですね。どうかますますのご活躍を。応援しています!

 

「フィルハーモニー」2008年5月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

髙橋美鈴

聞き手

髙橋美鈴

たかはし・みすず

NHKアナウンサー。北海道出身。東京大学卒業。1994年NHK入局。「美の壺」「日本の伝統芸能」等や、「探検ロマン世界遺産」リポーターとしても活躍。