NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

齋藤 真知亜

齋藤 真知亜

ヴァイオリン

さいとう・まちあ

東京都出身。東京藝術大学附属音楽高校を経て、東京藝大を首席卒業。1986年5月1日N響入団。1999年から毎年開催している自主企画リサイタルのシリーズ「Biologue」や、ショスタコーヴィチ全曲演奏が記憶に新しい「Quattro Piaceri」(2006~。大谷康子・百武由紀・苅田雅治諸氏と)、バルトーク全曲演奏に挑んだ「ヴィルトゥオーゾ・カルテット」(2007~。店村眞積・藤森亮一・大宮臨太郎と)などのほか、民族楽器によるコンサートにも注目が集まっている。また、ジュニア・フィルハーモニック・オーケストラでは、山本直純氏の遺志を受け継ぎ、指揮・指導を行っている。師に、西崎信二、奥田富士子、兎束龍夫、海野義雄、二村英之、山口裕之各氏。N響では、第1ヴァイオリン次席を務める。

 

岩槻

「N響アワー」で以前、馬頭琴〔モンゴル遊牧民の伝統的擦弦楽器。2弦〕の演奏を披露なさっていらっしゃいましたが、民族楽器は何種類ぐらいお持ちなのですか?

 

齋藤

基本的には弦楽器中心ですが、音の出るものはなんでも好きです。馬頭琴4丁、三線〔さんしん〕や二胡〔中国の2弦の擦弦楽器〕のほか、アボリジニ(オーストラリア)のディジュリドゥや口琴〔材質は鉄などの金属や竹。口にくわえたり唇にあて、指で弾いて演奏する〕etc.、さまざまです。

 

岩槻

ディジュリドゥというのはビービーバォワォって、低音で迫力ある響きを醸し出す楽器ですよね?

 

齋藤

はい。ユーカリの木の中を虫が喰い尽くし、表面がでこぼこの空洞に空気柱ができるため、独特の面白い響きが出るのです。

 

岩槻

口琴はどれぐらいお持ちなのですか?

 

齋藤

100個ぐらいでしょうか。

 

岩槻

100個もっ!

 

齋藤

ワークショップで売っていたりすると、洗いざらい、買ってきたりして。

 

岩槻

口琴って、そんなに種類も多いんですか?

 

齋藤

ヴェトナムにはとてもきれいな音のする口琴がありますし、日本でも鉄口琴の遺跡が出土しています。アイヌ、モンゴルからフィンランド、ハンガリー、北は、世界で一番寒い共和国と言われているサハ共和国まで、口琴は各地にあります。特にサハ共和国には、口琴のコンクールもあるんですよ。

 

岩槻

国によって音色もちがうのでしょうね。

 

齋藤

というか、演奏者によってちがいます。歯を振動させ、頭蓋骨で鳴らすので、同じ楽器でも、僕と岩槻さんとではちがってきます。

 

岩槻

民族楽器によるコンサートもよくなさるのですか?

 

齋藤

毎年定期的に行っているのは、小学校での朗読とのコラボレーションです。

 

岩槻

朗読は私も興味があります。どんなお話ですか?

 

齋藤

モンゴルの民話「スーホの白い馬」を妻が朗読し、僕が馬頭琴を演奏するという活動で、2月にいろいろな小学校に伺います。

 

岩槻

馬頭琴が生まれるまでのちょっぴり悲しい物語!馬頭琴ならではですね。
ホーミーもおできになるそうで、どうやって2つの声を出すのですか?

 

齋藤

2つの「声」というよりも、1つは地声のようなものが出てくると言うべきでしょうか。ホースをグルグル回したときに出るような音や、「カリグラ」という、岩がゴロゴロ転がるような1オクターヴ下の音とか。(実演しながら)

 

岩槻

路上販売のだみ声みたいですね(笑)。

 

齋藤

その通りで、中央アジアのトゥバ共和国などには“だみ声文化”があって、ソヴィエト時代に弾圧されていた少数民族の文化が、ソ連崩壊とともに表に出てきたのだと聞いています。当初は、変わった喉の形の人々が発見されたと思われていましたが、医学的研究で、歌い方だと解明されたそうです。

 

岩槻

どうして民族的な音楽に興味を抱かれたのですか?

 

齋藤

藝大1年のときに聴講した、小泉文夫先生の授業に感銘を受けました。先生はその翌年に亡くなられましたので、僕たちが最後の聴講生になりました。小泉先生の授業は、音楽の源流に触れるものでした。
今でも思い出しますが、先生がフィールドワークした2種類のイヌイットの話です。個々でアザラシ等を捕っている2人のイヌイットは歌を頼んでもそれぞれ勝手に歌うのですが、仲間と鯨を捕っているイヌイットは、自然に「せーの」の合図で歌うのです。アインザッツが合う合わないは鯨を捕れるか否かの死活問題なので、アンサンブルは生きるために必要不可欠なものだと、おっしゃっていました。小泉先生の授業は大人気で、席をとるのも困難でした。

 

岩槻

実際モンゴルにいらしたことは?

 

齋藤

8年前、ヴァイオリンを携えて行きました。遊牧民の方たちと毎晩、まさに宴でした。

 

岩槻

モンゴルの方たちは馬頭琴で?

 

齋藤

馬頭琴を買うことはみんなができることではないので、ほとんどの方は歌や手拍子です。その歌を五線紙に書き取って弾いたり、《チャールダーシュ》や《ツィゴイネルワイゼン》なども弾いて、見渡す限りの満天の星のなかで毎夜大宴会です。本当に楽しい日々でした。

 

岩槻

ついに現地まで!いいですねぇ。趣味によって人生が豊かに拡がっていらして。齋藤さんは、カルテットのレパートリーも含め、音楽に垣根のない方ですね。
ところで、大好きなヴァイオリンといえども、N響のフォアシュピーラーとなるとプレッシャーもあるのではないですか?

 

齋藤

僕は、第2ヴァイオリンで入団し、1年目に第1ヴァイオリンに移り、第8プルトの裏・表からトップサイドまで、全座席で弾いてきました(笑)。2プルトの裏、3プルトの表……全部仕事が異なり、その席ならどのように聞こえ、どうすべきか、N響が僕に教えてくれたことが体に染み込んでいます。それは、僕が自負として抱いているものです。
N響は創立80年を越え、その1/4以上を僕も共有したことになりますが、次の100年に向けて後輩たちに何を残して行けるのかということを、最近考えます。何のために弾いているのかという、根本的な姿勢も含めて。作曲家のしもべであるべきだし、「N響良かったね」とお客様に思って頂けるように弾きたいし、指揮者が「良い演奏会をつくれた」と思えるように弾きたい。そして何よりも、コンサートマスターに「弾き易かった」と思ってもらいたい。人間って誘惑に弱いので、つい、個人的名声を求めスタンドプレーをしてしまいがちですが、そうではなく、『N響がつくりだす音楽のために』という姿勢を貫きたいと思っています。僕がN響から頂いた財産を、現場で後輩たちが感じて吸収し、次の伝統を築いていく……いっしょに苦労できればと願っています。

 

岩槻

頼もしい先輩として、これからもご活躍を応援しています。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2010年6月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。