NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

木全利行

木全利行

ヴァイオリン

きまた・としゆき

神奈川県出身。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)および桐朋学園大学に学ぶ。1971年全日本学生音楽コンクール小学生の部東日本大会第3位。1979年11月1日N響入団。1986年民音室内楽コンクールで齋藤秀雄賞受賞。フィンランド・ヤルヴェンパーで開催されたシベリウス・ウィーク(1996)にソリストとして出演するなど、室内楽奏者、ソリストとしても活躍。師に、徳永茂、徳永二男各氏。

 

岩槻

木全さんは19歳でN響入団を果たされていますね!

 

木全

セクションに空席が出たときにしか募集がかけられませんので、応募したのです。卒業したときに募集があるとは限りませんし、また、そのときに必ず受かる保障があるわけでもありませんので、チャレンジしてみました。

 

岩槻

木全さんは、N響でコンサートマスターを務められていた徳永二男氏のお父様に、3歳から師事なさったのですね?

 

木全

はい。そして小学校5年生から徳永二男先生につきました。その先生から、「卒業したらどうするつもり?オーケストラで弾くのが好きなら、今、N響に空席があるけれど。でも今のままじゃあだめ。一生懸命練習するなら、受けてもいい」と諭され、頑張ってみました。受けたのはまだ18歳のときで、大学に通い始めたばかりの頃でした。

 

岩槻

N響にエキストラでいらしたことはあったのですか?

 

木全

高校生の頃から時たま弾きには来ていました。

 

岩槻

高校からトラでN響に来ていたことが、将来はオーケストラで、という方向性につながったのでしょうか。

 

木全

最初から、演奏家として働くならオーケストラがいいな、と思っていました。

 

岩槻

ほとんど高校生に近い状態で、日本のトップ・オーケストラに入られてしまったわけですね……

 

木全

オケとはどういう所か、右も左もわからないままに来ていたようなものです。練習場に入るとまず、テレビでお見かけしていた顔がズラーっと並んでいて、それを見てカーッと頭に血が上っているところに、最初の1音から、高校のオケとは天と地ほども完成度のちがう響きが鳴り渡るわけです。このまま演奏会をしてもいいじゃないかと思いました(笑)。こちらも、パート譜を暗譜するほどさらってきたつもりが、頭に血が上って全部飛んじゃいました。学生オーケストラの練習は、ここはこういうふうな表現をしてみましょうという懇切丁寧な説明から始まりますが、プロは「ここお願いします」と、基本、できていて当たり前。高校の頃から、学校も行きつつオケの練習もしてと、遊んでいる暇は全くと言っていいほどありませんでした。

 

岩槻

若い木全さんにとって、N響の百戦錬磨のおじさま方はすご〜く怖い存在だったのでは?

 

木全

まだ戦中派の方々がいらして、さまざまな意味で厳しい時代でした。

 

岩槻

もまれましたか?

 

木全

それはもう。表現もストレートで、「おまえだけ全然ちがっているよ」と。じゃあどうしたらいいのか、教えてくださるわけではないのです。今はちがいますよ。厳しいことに変わりはないのですが、「ここ、こうしてみようか」っていう感じですかね(笑)。
仕事に関しては厳しい方々でしたがしかし、ツアーなどでは、いろいろな楽しい所などに連れて行ってくださったのですよ。

 

岩槻

放送もあることですし、プレッシャーもたいへんでいらしたのでしょうね。

 

木全

定期は全プロを録画していましたが、放送にならないことがあると、「僕があそこでまちがったからだ」と(笑)。少し被害妄想的にもなっていました。

 

岩槻

では、楽しいな、とはなかなか思えなかった?

 

木全

んー、だから楽しい、ってあるじゃないですか。とにかく、オーケストラで弾くことは最初から好きでしたし、また、共演者もすごい方ばかりで、知らないことや思いもつかなかった表現を何千何万と吸収できましたから、「ナルホド!」という楽しさに満ちていました。血と汗と涙のないところに、達成感や満足感はないと思います。

 

岩槻

アマチュアで、理想とする音楽があって、でも毎日練習はできないけれども音楽は続けていきたい、という愛好家が、続けていくコツのようなものはありますか?

 

木全

よく、「好きなことを仕事になさっていていいですね」と言われますが、先ほど申し上げましたように、少なからぬプレッシャーもあり、満足のいく成果に到達するには血と汗と努力が必要なわけです。アマチュアという立場がいちばん、音楽を楽しめるのかもしれません。「音楽」の字義そのままに、音を楽しんでいただけたらと思います。楽器に触れる時間が少ないとは思いますが、ならば、触れたとき、そして曲が形になったときの喜びは、ひとしおなのではないですか。また、結果を求められるプロとは異なり、完成へのプロセスも、楽しみの1つとなるでしょう。
ご帰宅が遅くなられ、音を出せない住宅事情の方は、ケースの蓋を開け、楽器を構えて左手を動かし、弓を弦の上に置いてみるだけで——姿勢ひとつとるだけで——腕の落ちるスピードが遅くなります。こうやって押さえればあの音が出るはずだ、と確かめておくわけです。少しはじくぐらいなら大丈夫でしょうし、それをするとしないとではかなりちがってくると思います。

 

岩槻

ああ、なんて心強いアドヴァイス!本当にありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2009年11月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。