NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

大鹿由希

大鹿由希

ヴァイオリン

おおしか・ゆき

東京都出身。桐朋学園大学卒業。第8回日本モーツァルト音楽コンクール・ヴァイオリン部門第1位(1997)、第1回江藤俊哉ヴァイオリン・コンクール第1位(1996)、2003年1月1日N響入団。

 

髙橋

大鹿さんは、古楽から現代の新作までをオリジナル楽器で演奏する「アンサンブル・ジェネシス」という、若い方たちによる室内楽規模のアンサンブルでも活動なさっているそうですね。

 

大鹿

2005年の結成当初には年3回コンサートを行っていたのですが、メンバーの半分が留学などでヨーロッパにいることが多く、現在はオランダ・ドイツでの公演や、小編成のアンサンブルによるコンサートが中心になっています。
レジデント・コンポーザーとして新垣隆さんがいらっしゃいますので、新作や編成をアレンジした作品にも積極的に取り組んでいます。

 

髙橋

曲ごとに、楽器や演奏法を変えるのですか?

 

大鹿

曲によってオリジナル、モダンの2種類の楽器を持ち替えしますし、その時代の演奏のスタイルを考慮して弾きわけるよう、自分たちなりに工夫しています。最初は1つのコンサートのなかで色々な弾き分けをするのは大変でしたが、慣れてくると作品(の時代)に合わせた演奏をするのが自然に感じられるようになってきました。最近はモダン・オーケストラであるN響との切り替えも違和感を感じなくなりました。

 

髙橋

オリジナル楽器に取り組もうと思われたきっかけは?

 

大鹿

6年ほど前に《マタイ受難曲》を演奏した際、共演していたヴィオラ・ダ・ガンバの演奏がとても躍動感に満ち、音楽が生きているように感じました。それがきっかけとなってオリジナル楽器に親しんでいきました。

 

髙橋

ピリオド楽器とモダン楽器では、やはりかなりのちがいを感じられましたか?

 

大鹿

楽器の特徴にはかなり違いがあります。現代の楽器はテンションを高めるために弓や楽器、弦に手が加えられ——例えばバロックの弓は、弓なりの形に近いものでしたが、現在は毛に対して反っていますし、楽器も弦を張るネック部分に角度がつけられました。弦は湿度に弱かったり切れやすかったりして扱いにくいガット弦(羊の腸からできている弦)から、耐久性の強いナイロンやスチール弦に変化——こんにちのスタイルに落ち着きました。ピリオド楽器では強い音は出せませんが、いろいろな倍音が聞こえてきて温かみがあり、弦が鳴ってくれるととても気持ちがいいのです。
作曲家がイメージする音は、その時代に使われている楽器から生まれてくると思いますので、音色やアーティキュレーションなどの適切な表現は、その楽器を使ってみることに大きな意味があると思います。もちろん、モダン楽器で表現できないということではありません。

 

髙橋

当時の人はこういう音を聴いていたのかなぁと想像も膨らみますね。
2006年11月Bプロ(11/1、2)、Cプロ(11/10、11)の指揮は古楽の泰斗の1人、サー・ロジャー・ノリントンでしたが、どんな印象が残っていますか?

 

大鹿

私はとても楽しかったです。ご存知のように、マエストロ・ノリントンは全曲を通してノン・ヴィブラートを要求しました。私はマエストロの考えについて深く理解しているというわけではありませんが、ヴィブラートをかけないことによって聞こえてくる音程や音色に敏感になり、本質的に音に“近づいた”という感覚でした。その音をうまく響かせようとするプロセスのなかで、ハーモニーをつくる耳も鋭くなり、豊かな和声感、リズム感などの明確な表現が得られたのではないかと思います。マエストロからは、協和・不協和をとても意識させる指導もありました。

 

髙橋

入団なさって6年目ですが、オーケストラで弾く楽しみはどのようなところにあると感じられてますか?

 

大鹿

一流の指揮者・ソリストといっしょに演奏できることで、いろいろな影響やインスピレーションを受けられます。それから、オーケストラという大規模アンサンブルのなかでの交流や駆け引きはとても魅力的なものです。100人からの集団のなかで、そのつどコンディションが異なるわけですが、限られた時間(練習日と本番を含めて約1週間)内でいろいろな要素をクリアーしながら曲を作り上げていく作業は魅力的です。6年目になると、もう1度同じ曲が巡ってくるということも多々出てきて、異なる指揮者だと新たな発見があったり、また、微小なレヴェルかもしれませんが経験が積まれてきたことを感じたりするのです。

 

髙橋

からだを動かすことにも最近興味をお持ちだとか?

 

大鹿

ヨガやジャイロキネシスに加え、大学時代から憧れていた登山も4年前から始めました。雲の上には別世界があり、とても気持ちがいいです。

 

髙橋

お聞きしているだけで空気がおいしくなりそう。ありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2008年10月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

髙橋美鈴

聞き手

髙橋美鈴

たかはし・みすず

NHKアナウンサー。北海道出身。東京大学卒業。1994年NHK入局。「美の壺」「日本の伝統芸能」等や、「探検ロマン世界遺産」リポーターとしても活躍。