NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

植松 透

植松 透

ティンパニ&打楽器

うえまつ・とおる

東京都出身。国立音楽大学、同大大学院修了。1993年4月1日入団。1998年ベルリンに留学、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席奏者ライナー・ゼーガース氏に師事。

 

髙橋

打楽器奏者は、演奏しながら冷静にオーケストラを“外側”から見ているそうですね。

 

植松

もちろん、奏者は皆演奏しながら周囲の音を聴いたり見たりしているわけですが、僕たちは何もしない時間が長いもので(笑)——皮張りのティンパニの調整など気の抜けない時もありますが——、本当に“観察している”という状況です。

 

髙橋

まさにライヴのコンサート、そうしてご覧になっていて、同じ曲・同じ指揮者でも、日によって演奏に違いはありますか?

 

植松

毎日違いますよ(笑)。オーケストラという大きな塊のなかで、奏者たちはソロでもトゥッティでも、自発的に少しでも良い演奏にプラスになることを仕掛けていて、その結果微妙にいろいろなことが起きています。「あっ、みんなそちらに行きたいんだ」という意志を感じ、次に出るとき、そちらの方向に向かって音を出すよう心がけています。またそれぞれが前に攻めたいと思っていても、そのきっかけが掴めないときなども打楽器の出番です。曲の要所、つまり音楽の曲がり角や坂道の手前などで鳴らす割合が高いので。指揮者の役割と少しかぶりますが、指揮者は手で、打楽器奏者はそれを音で指し示すといったところでしょうか・・。方向を捉え、その音を出すことが、僕たちの仕事の重要な部分です。たとえば、代打で出てきて、必ずホームランを要求されているわけではなく、バントだったり、犠牲フライだったり、要求される仕事はいつも異なります。ホームランを打てと言われれば打てるんですけどね、場外ぐらいの(笑)。

 

髙橋

目が離せないし、いろいろなことを考えなければならないし、実は緊張の連続ですね。

 

植松

常に準備を怠らない、流れを見極める、そして最後は度胸です(笑)。やりがいを感じるのは、打楽器の音によってオーケストラがすっと、みんなが望む方向に動いたときで、でもそんなことはしょっちゅうあるわけではないのですが。

 

髙橋

打楽器は指揮者から1番遠い所にいらっしゃいますね。たとえばベートーヴェン《交響曲第7番》の出だしの和音、ティンパニの一撃を合わせるのは難しそうに見えます。

 

植松

ペーター・ゾンダーマン(元ドレスデン州立歌劇場管弦楽団首席ティンパニ奏者、1998年没)という、神様のようなティンパニ奏者が教えてくれたことですが、もちろん合わせることも大事だとした上で、少し早く鳴らすとオケの音が固く聞こえ、ほんの少し遅らせると全体に柔らかく聞こえると。つまり合わせ方一つで、オーケストラの音色が変わるんだよということです。どれぐらいのタイムラグがその場で生じるかは、いろいろなコンディション——ホールの規模、熱い・寒い・湿気、聴衆の多い・少ない、休憩前・後etc.——によってちがってきますが、欧米のオケは専用ホールを持っていますので、ホームグラウンドで演奏の際には、季節や聴衆の入りなどさまざまな状況下での響きを把握した演奏作りが可能なわけですね。そういう意味でもN響にも専用ホールが絶対に必要なんです。

 

髙橋

たくさん撥(マレット)をお持ちですが、どのように決定なさるのですか?楽譜に指定があるのですか?

 

植松

指定が書き込まれていることの方が稀で、基本的には自分の選択です。そして練習でまず行うことは、指揮者の要求する音色とマレットの音色を一致させることで、同じ作品でも指揮者によって変わります。抵抗したりもしますが(笑)。

 

髙橋

“勝負マレット”とかあるのですか?

 

植松

ありますよ。でもどんなマレットかは内緒!(笑)腕の太さも身長も人によって異なりますので、それぞれにお持ちだと思いますが。

 

髙橋

ベルリン留学で得たものは?

 

植松

ベルリン・フィルのゼーガース先生から学べたことは語り尽くせませんが、ベルリンで今さらながらのように悟ったこともありました。語学学校で知り合ったトルコ人の親友から自転車を譲ってもらい移動の足にしていました。今でも練習場やNHKホールに自転車で通ったりしていますよ。片道15kmくらい!みんなと同じペースを守らないと乗れない通勤電車とちがい、自分のペースで走る通勤なんです。ベルリンという街が、ニューヨークにも似て、多様な人種や文化、いろんな目的を携えた外国人の集まる都市だということもあるのでしょうが、生活パターンやそのペースは「人さまざま」だということを改めて実感したのです。こと音楽に関してなら、各奏者のレヴェルの高いベルリン・フィルなど、誰かにリードされずとも演奏できるわけですが、「自分はこう演奏したい」という思いを実はみなそれぞれが抱いていて、その「さまざまな」奏者たちを束ねるために指揮者は指揮台を指揮棒でチャチャチャと叩き、自分の思う音楽へと導いていくんですね。オーケストラでは多くの人間が1つの音楽を作り上げていくわけですが、しかし初めからはみ出さないようにするのではなく、もしはみ出したら指摘すればいいわけで、基本的にはもっと自由に考えればいいのではないかなと、改めて悟ったんです。

 

髙橋

リトルリーグでも活躍なさっていたそうで、これからも絶妙の“バント”に注目しています(笑)。

 

植松

あれ、場外ホームランじゃないんですか?(笑)

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2008年10月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

髙橋美鈴

聞き手

髙橋美鈴

たかはし・みすず

NHKアナウンサー。北海道出身。東京大学卒業。1994年NHK入局。「美の壺」「日本の伝統芸能」等や、「探検ロマン世界遺産」リポーターとしても活躍。