NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

森田 格

森田 格

ファゴット

もりた・いたる

東京都出身。高校1年よりファゴットを始める。東京藝術大学卒業。1986年第3回日本管打楽器コンクール・ファゴット部門第1位。これまでに関口敏樹、故三田平八郎、フリッツ・ヘンカー、岡崎耕治の各氏に師事。1988年4月1日入団。ファゴット奏者。室内楽でも幅広く活動し、上野学園大学音楽学部非常勤講師として後進の指導にもあたっている。

 

手作りのリードで自分の音をデザインします

華恵

ファゴットという楽器との出会いからお話をお聞きしたいのですが。

 

森田

中学の吹奏楽部に誘われて入って、トロンボーンを始めましたが、ファゴットに興味を持つようになったことからです。

 

華恵

トロンボーンを吹きながらファゴットの存在が気になっていたわけですか?

 

森田

そうです。ファゴットという楽器の存在を知って、ずっとやりたかったけれども、中学3年間はトロンボーンの担当で、高校に入ったら必ずファゴットを始めたいと思っていました。でも、トロンボーンを吹かせてもらった3年間には感謝しています。今、僕がN響でやっている音楽の基礎的な部分、オーケストラのプレイヤーとして必要なことの一番大事なところは、トロンボーンを吹いていた3年間で勉強したと思っていますから。

 

華恵

一番大事なところと言いますと?

 

森田

トロンボーンとファゴットは似ているところがあるんです。ファゴットという楽器は、オーケストラの中で、メロディを吹く時もあれば、ベースを吹く時も、内声でハーモニーを作る時もある、いろいろな役割を与えられる楽器なんです。メロディを担うのは準備しやすいけれども、陰に回った部分の役割を果たすには、作曲家が書いたスコアを理解できていないとならない。トロンボーンも似たような役割をオーケストラで担っていますから、スコアを読んで内側から音楽の構造を探って、その役割を果たすという勉強を中学の3年間にたくさん体験できました。

 

華恵

高校に入って念願のファゴットと出会われたんですね。

 

森田

ずっとやりたかった楽器だったので、ファゴットを手にした時には、指使いもすべて独学で教則本で覚えていたので、ほぼ全部の音を吹けました。

 

華恵

プロの演奏家になるという決心はすでにその頃からですか?

 

森田

いやその頃は非現実的な白昼夢のような感じで、演奏家になれたらという夢は持っていましたけれども、実際になれるとは思っていなかったですね。夢はずっと持ち続けていましたが、運良く夢が叶ったという感じです。

 

華恵

私も大学4年生で、同級生たちと将来の話をしています。

 

森田

大学4年の頃は、自分がプロのプレイヤーになれるとは思っていなかったですね。こうしてファゴットで生活できてラッキーでした。

 

 

 

華恵

ファゴットのリードをご自身で作られるのですね?

 

森田

僕がファゴットを始めた当時は、まともに使えるリードがなかなか手に入らなかったんです。現在はいろいろな人が作って楽器屋さんにも卸していますので、今の若い人達は自分で作らなくても吹けるんですが、我々のころは自分で作らざるを得なかったんです。これまでに他人のリードで吹いた本番は3回だけ。高校生のころ最初にアマチュアのオーケストラで吹いた時に先生からもらったリードで吹いて、2度目は大学に入ってからすごくいい音がする先輩のリードをもらって吹いたことがあります。そして最後はN響に入ってから、定年でお辞めになった菅原眸さんから、1本いただきました。リードで悩んでいるときに、こんなリードで吹いてみたらと譲っていただいたのです。

 

華恵

リード作りは大切な作業なんですね。どこが違うのですか?

 

森田

他人の作ったリードで吹くのは他人の音のような気がして。リードはちょっと削りかたを変えただけで音色が大きく変わるんですよ。弦楽器の音色は楽器本体でかなり決定されると思うのですが、リード楽器の場合はリード次第で自分で音色を作っていける利点があるんです。リードを自分で作ることによって、自分で音をデザインできる面白さがありますね。

 

華恵

曲によってリードを変えることもあるのですか?

 

森田

ファゴットは音域が3オクターブ半近くあるのですが、その広い音域を自在にコントロールできるリードが存在しないんです。オールマイティなパーフェクトなリードがない。ですから曲によってリードを替えます。たとえばデリケートな弱音を要求される曲ならばそういう音が出しやすいリードにするし、パワフルなものを要求される曲だったら別のものにする。

 

華恵

新しい曲のために新たなリードを作るのですか?

 

森田

特定の用途のためのリードを作るのではなくて、常にすべてに対してのパーフェクトを目指して作るんですが、それでもリードによって個性が出る。そのリードの個性に合わせて次の曲が要求する要素に最適なものを選んでいます。

 

華恵

N響に入られてからは音楽観に変化はありましたか?

 

森田

変化は常にしていると思います。若いつもりでいたんですがいつの間にか木管の中で一番古い方になってしまいました。1988年の入団以前にエキストラで吹いていた期間も長かったのでもう30年近くN響にいますから。たくさんの偉大な指揮者の方からのレベルの高い要求に応えるべく試行錯誤しながら、本物の音楽の追究を経験させてもらいました。

 

華恵

これからどのような演奏家人生を送られていくご予定でしょうか。

 

森田

貴重な体験で吸収したものを生かしながら、1回1回、いい音楽をしていきたいなと思います。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2013年1月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。現在、東京藝術大学音楽学部楽理科に在学中。