NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

小野富士

小野富士

ヴィオラ

おの・ひさし

福島県出身。東海大学工学部電気工学科および東京藝術大学音楽学部器楽科ヴィオラ専攻卒業。1981〜1985年東京フィルハーモニー交響楽団副首席奏者。1987年3月1日N響入団。1992年モルゴーア・クァルテット結成に参画。モルゴーア・クァルテットメンバーとして村松賞、アリオン賞受賞。

 

髙橋

東京藝大に入る前に、別の大学で電気工学を学ばれていて・・・「勘当されても音楽家になりたい」とお父様に手紙を書いたそうですね。音楽家になりたいと思ったきっかけはなんだったのですか?

 

小野

3歳からヴァイオリンは習わされました。
音楽家になりたいと思ったきっかけは2つあります。1つは直接の動機になったこと、もう1つは、胸の奥深くに刻まれた出会いです。
直接の動機となったのは、大学2年の時に始まるシミュレーションとしての実験でした。教科書通りに回路を組み、データを取ることは私にもできましたが、「このトランジスタをこっちに持ってきたらどうか?つなぎ方を並列にしたらどうか?」と、いろいろ試してみようと興味津々な同級生を見て、全く興味のわかない自分を発見し、たとえば25歳ぐらいに就職して、だいたい40年間この興味のないことを続けるのかと考えると不安になりました。それならばどんなに貧乏しても音楽をやる方が生き甲斐があると思ったのです。音大に行けるなどということすら思い描いていない段階で、です。
それと「出会い」ですが、中学3年生の時です。郷里福島市で開催されたコンクールに弦楽四重奏で出場して、審査員としていらしていた故・山田一雄先生に講評を頂きに行って「ハイドンの解釈について教えてください」と伺ったところ、先生は「あー、弦楽四重奏を弾いていた君たちね?僕は解釈ってのはわからない。だけど、四重奏、続けてね」って答えられたのです。それまでに会ったことのない人に出会った気がしました。“本物”の人の言葉を聞いたという感銘でしょうか。今から思えば、僕が音楽家になりたいと思ったこととどこかでつながっているのかもしれません。

 

髙橋

お父様も「入った大学は出なさい。音大に入るための最低限の援助はする」と後押ししてくださったとか。小野さんが情熱をかけるヴィオラの醍醐味は?

 

小野

弦楽器のなかで、ヴァイオリンとチェロは音響的に“よく鳴る”楽器ですが、それに比べてヴィオラとコントラバスは鳴りにくい楽器と言えるでしょう。ヴィオラの場合“鳴る”ヴァイオリンとチェロの間にはさまって少しモコモコした甘く太い音を出すことで、音響上の“クッション”の役割を果たすことになり、これはいろいろと面白いポジションなのです。しかも、そのスポンジがいつもいつも水を吸ってばかりいるのではなく、時には洗剤を出すのも面白いと思います。自分なりのスタンスで弾いてみると、周りから「もっとこうして欲しい」というリクエストが出てきます。そしてそれに対応することでアンサンブルがより進化します。自己主張というとちょっと違うかもしれませんが、全体のなかにとけ込もうと思いすぎず、音楽に参加する主張をした方が良いと思います。

 

髙橋

日本のオーケストラ全体の水準はここ10年飛躍的に上がってきたといわれます。いろいろなことに挑戦できるようになってきたのではないですか?

 

小野

もちろん技術的にはそうです。今の20代30代の人たちには弾けないことなどないほどで、アンサンブルのタテヨコはすごくよく合います。しかし、今度はそこからなにをしたらよいのかを考える必要が出てくると思います。それは社会において、1人1人がどのようにして生きていくかを考えることと同じではないでしょうか?日本のオーケストラの合奏能力はよく統一がとれていて、まさに国際的水準を持っていると思いますが、これからはそのなかで「自分としてどうするか」を踏み出す時期にきているのではないかと思うのです。

 

髙橋

オーケストラの音は1人1人が創っているのですね。後輩に“伝える”世代にもなったと思いますが……

 

小野

団塊の世代の先輩達が定年退団されてしまい、いつの間にか古い方になってしまいました。“伝える”というよりも「提案」して「納得」し合うことが必要だと思います。どんな優秀な新入団員でも、オケに入って3年ぐらいは大先輩の方が上手いんです。でも3年経った頃にはそろそろ先輩を超えださないと。そこからがその人の「始まり」で、先輩から受け継いだものに自分で試行錯誤してなにかを足していかないといけません。若い方たちも、踏み出して怒られることを恐れずにいろいろやって欲しいし、僕たちも嫌われることを恐れずにアドヴァイスをしていかないと、全てが面白くなくなってしまうと思います。

 

髙橋

小野さんは、モルゴーア・クァルテットでも活動中。ちょっとユニークなカルテットなんですよね。

 

小野

マニアックな選曲が人気です(笑)。元々はショスタコーヴィチの15曲全曲を演奏しようというところから出発し、せっかく弦楽四重奏に取り組むのだからと、“元祖”ハイドンも同時に手掛けました。現代音楽にも造詣の深いメンバーがおり、リピーターは「次はどんな知らない曲を聴かせてくれるのか」と期待してくれていて、健全な状態にあると思いますね。

 

髙橋

いろいろなものに挑戦しようというエネルギーが素晴らしいです。ありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2008年12月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです

 

N響ライブラリー

髙橋美鈴

聞き手

髙橋美鈴

たかはし・みすず

NHKアナウンサー。北海道出身。東京大学卒業。1994年NHK入局。「美の壺」「日本の伝統芸能」等や、「探検ロマン世界遺産」リポーターとしても活躍。