NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

小畠茂隆

小畠茂隆

ヴィオラ

おばた・しげたか

奈良県出身。天理高等学校を経て、東京藝術大学入学。高校時代はラグビー同好会だった。ヴィオラを菅沼準二氏に師事して同大を卒業。1994年1月1日N響入団。

 

岩槻

最初はヴァイオリンからですか?

 

小畠

はい。地元のジュニア・オーケストラのヴァイオリン・セクションに入りました。夏の合宿や定期公演など、みんなとの合奏はとても楽しかったので続けられました。ヴァイオリンの子どもは必ず1度、ヴィオラを体験するのですが、すごく良い音はするし、ハ音記号も慣れてしまえばなんら不便はないし、また、もう少し大きくなってからですが、オーケストラのなかでの内声部の縁の下の力持ち的な役割も面白くて、夢中になりました。

 

岩槻

ヴァイオリンからヴィオラに変更する際の苦労はハ音記号のちがいだけのように思ってしまいがちですが、大きさも少ししかちがわないのに、弾いてみると実は全く別の楽器のように感じますね。

 

小畠

そうなんです。大きさにして、数センチ、5cmもちがわないのに、こうもちがうものを弾いているのかと思いますね。技術的にもかなり異なる面がありますし。

 

岩槻

ヴィオラにはブラームスに魅力的な作品が多い気がするのですが。たとえば、《弦楽六重奏曲第1番》の第2楽章、ニ短調の哀愁漂う旋律はヴィオラから始まりますが、あれを弾くためにあの曲ではヴィオラを弾きたいという方もいるほどですね。

 

小畠

ブラームスは、室内楽においても管弦楽作品においても、ヴィオラをとても魅力的に書いている作曲家の1人で、ヴィオラやクラリネットの音域が好きだったのでしょうね。

 

岩槻

ドヴォルザークの《交響曲第8番》第4楽章の“黄金虫”(第4楽章の変奏の1部に中山晋平作曲・野口雨情作詞の童謡 黄金虫》に似た部分がある)は、ヴィオラの方にとっては恥ずかしかったりするのですか?

 

小畠

あれは、圧倒的存在感で弾けば、まさにドヴォルザーク的・スラヴ的なところで、僕は好きですねぇ(笑)。

 

岩槻

ゴリゴリ弾いちゃいますか?

 

小畠

聴いてる方が恥ずかしくなるような所は思いきって弾いちゃいますね。また、そういう感じのものがよく出てくるんですよ、ヴィオラには。プリマドンナ的ではないけれども、存在感を放つような感覚とでも言いましょうか。

 

岩槻

ヴィオラ・セクションの方は、そういう部分でも独特の力を尽くしていらっしゃるのでしょうね。
この1月で、N響のヴィオラ・セクションに入られて16年目を迎えられましたが……

 

小畠

N響のヴィオラ・セクションは他の団体では味わえない緊張感と充実感があるところです。いわゆるプロフェッショナルの塊のような人の集まりで、各人がソリストになれるレヴェルにありながらチームワークを磨いてアンサンブルを成しています。さまざまなセクションの主旋律を挟んだり、繋ぐような役割が多いので、人間的にも協調型の部分を多分に持ちながら、個性的でもあるのです、矛盾しているようですが。練習中も、首席の指示を待つだけでなくああだこうだと話し合いますし、ステージに上がる前も身が引き締まりますが、終演後の充実感はひとかたならぬものです。

 

岩槻

弦はほとんどの曲が乗りっぱなしで、さらわなければならない曲も多いわけですが、時間のやりくりはどのようになさっているのですか?

 

小畠

僕は、知らない曲を譜読みしたりスコアを見たりするのも好きで、個人練習も好きです。好きなことですし、たぶん、好きな人しか残っていない世界だと思いますが。

 

岩槻

そういえば、藝大受験の時、師の菅沼準二氏を「どんな無理難題を宿題に出しても必ずやってくるヤツがいる」とうならせたというエピソードがあると聞いたことがありますが。

 

小畠

あれはですね、僕が藝大へ行こうと方向転換したのが高校3年の秋で……

 

岩槻

高3?!遅くありませんか?

 

小畠

そうなんです。それで菅沼先生を紹介していただき伺ったのですが、「今頃来られてもねぇ、君。まあ、1年浪人するつもりで頑張りましょう」と言われたのですが、両親からは「浪人するなら一般大学に行きなさい!」と迫られていましたので、今から振り返れば相当頑張ったのだとは思いますが、それに尾ひれはひれがついてしまいました。ですから、藝大に入った後、辛かったですね。

 

岩槻

どうしてですか?一浪もせず、めでたく合格したのに。

 

小畠

いやあ、周りは才能の塊のような人ばかりに見えましたし、“いい刺激”を通り越して、疲れて、なにか間違っていたんじゃないかとさえ何度も思いました(笑)。

 

岩槻

15年の間に、深く印象に刻まれている演奏会はありますか?

 

小畠

ズービン・メータ指揮のマーラー《交響曲第1番》です(1996年11月)。当初は《第3番》の予定であったものが、来日直前にお父様がご病気になられ来日が遅れることになったため、練習時間の関係で《第1番》に変更された演奏会です。そのままのオーラでした——つまり、お父上を心配して思うオーラに包まれたまま現れ、本番のステージもその気迫で、僕は自分がどこにいるかわからなくなったほどです。そして、マエストロの合図を見たとたん電気が入り、そこからは演奏が終わるまでどこをどう弾いたのか……。指揮者とのあんな衝撃的な出会いは後にも先にもありません。

 

岩槻

お客様の反応は?

 

小畠

もの凄いものでした。その時のことが今だに忘れられなくて、マーラー《交響曲第1番》を演奏する際には必ず蘇ります。

 

岩槻

オーケストラ以外ではどのような活動をなさっているのですか?

 

小畠

室内楽にも参加しますし、特に、小さな空間でのサロン・コンサートや、どなたかの自宅で演奏会を開くというような、聴き手と近くて反応をダイレクトに感じられるインティメートなコンサートが好きです。僕たち演奏家には依頼されて弾く機会の方が多いのですが、空間やプログラミングを自分で企画したコンサートを開いてみたいです。

 

岩槻

サロン・コンサートって本当に楽しいですものね。開催の折にはどうかご一報ください。今日はありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2009年1月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。