NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

佐川 裕昭

佐川 裕昭

コントラバス

さがわ・ひろあき

青森県出身。東京藝術大学、同大大学院修了。1984年2月1日N響入団。師には、N響首席を務めた江口朝彦、小野崎充両氏や、1989年にN響の海外派遣により留学したウィーンでの師・元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席ルートヴィヒ・シュトライヒャー氏がいる。ソロ、室内楽多方面で活動し、N響コントラバス・セクションでは、次席を務める。

 

岩槻

今日はコントラバス奏者の佐川さんにぜひ伺いたいことが。コントラバスと言えば、通常ステージに向かって右側で演奏することが多いですが、マエストロ・サンティが指揮する時は必ずといっていいほどステージの左側、しかも一列に並びますよね?また、古楽系の指揮者の多くもこの対向配置をとり、コントラバスは左側に行きますが、コンバス奏者としてこの右から左への移動はどう感じていらっしゃいますか?

 

佐川

まず、オケとの関係性が「個人」になるところでしょうか。通常は対向配置でも8人は1つの円のなかにおりますので、アンサンブル(オケ)に対しセクションとして相対する感じです。しかし、横に一列を成す配置になると、アンサンブルや指揮者に対し個々人で呼応する感覚が出てきます。いつもなら、1プルトを先頭に、タイミングや響きを一致させ一団を成しているつもりなのが、横に長く広がると──最も後ろに配置したノリントン指揮の定期など特に──両脇どうしのコンタクトがとりづらく、他のパートの方からはあちらこちらで花火が上がったかのようなことになっていて、でも面白い瞬間もあるとのことでした。

 

岩槻

響きにも違いが?

 

佐川

古典派近辺までのレパートリーには良い結果が出ていると思いますし、お客様からも、他のセクションと音がよく混ざって聞こえるという声を聞きました。低音の響きが客席に豊かに伝わっているのではないかと、個人的にも感じました。ロマン派以降の、混沌とした音像が多く求められる作品になると、指揮者も適切にさばかなければならない部分も多くなり、難しい面も出てくると思いますが。

 

岩槻

横一列に並ぶ時、首席はどこにいるのですか?

 

佐川

毎回トップになる人が決めています。というか、試行錯誤しています。ノリントンさんのときは右から3人目の場所でしたし、サンティさんのときは一番左側だったり、左から2人目・3人目ということもありましたし、今度4人目の場所もあり得ます。

 

岩槻

毎回、試行錯誤しているんですね。
実は、通常の一列ではない対向配置でも、首席はどうしてあの位置なのかと、分かりにくいのですが。

 

佐川

ヴァイオリンなどは客席から遠い人──いわゆる、プルトの裏──が譜めくりするため、客席側から席次順に並んでいきますが、コントラバスは楽器が大きいので譜めくりも大変で、譜めくりをしようとして手を伸ばすと、隣の人の弓とぶつかりそうになることが度々起こるので、最近では、客席側から1番奏者、2番、3番…と並ぶのではなく、客席側から2番奏者・1番、4番・3番と、客席から遠い方が席次が上になるように並び、客席に近い2番、4番奏者が譜面台の右側からめくる配置になっています。

 

岩槻

先ほどの横一列の対向配置についてですが、ある意味、響きやセクションとしての在り方自体も変えてしまう対向配置に、セクションとして軋轢はなかったのですか?

 

佐川

N響の練習やゲネプロは、開始時間きっかりにオーボエがA(ラ)の音を出して始まるのですが、最初にサンティさんが登場した2001年11月定期のゲネプロ開始前に、サンティさんがコントラバスの譜面台を握って手を離さず、当時の1プルトの先輩方やステージスタッフと譜面台の取り合いをしておりまして、開始が数分おくれました。

 

岩槻

その様子を想像すると愉快ですけど……(笑)。N響のゲネプロは時間通りに始まることで有名ですが、唯一、始まらなかった事件ですね?

 

佐川

ちがうマエストロのときに、もう1つ2つはあったはずです。

 

岩槻

ハハハ。それでは、コントラバスの不思議その2、あの椅子には腰掛けているのですか?

 

佐川

まずですね、正団員として契約したあと、コントラバスはステージ用にマイ椅子を作ってもらうのです。練習所には別にドイツ製の椅子があって、高さと左右の足の位置の調整ができます。

 

岩槻

えっ、マイ椅子?知らなかった!それほど椅子の高さは重要なのですね?

 

佐川

それが、自分の椅子がない契約団員のとき、合わないのに長い間使って腰が痛くなったりしました(笑)。

 

岩槻

あー、やっぱり。

 

佐川

コントラバスの椅子は、体重移動をし易くするために、左足を掛ける位置が少し前に出ています。

 

岩槻

まるで立っている状態ですね。

 

佐川

そういう瞬間もあります。本当は、左足の位置が自由に動かせる──もっと言えば、ギターのように、左足を乗せる足台が別になっていてどこにでも置けるタイプが良いのですが。ウィーン国立歌劇場がそうなのです。運ぶ手間は2倍になってしまうのですが。そう言おうと思って20年経ってしまいました(笑)。いや実は前に1度言ったことがあるのですが、当時は運ぶのが大変だと断られてしまいました。それで、次に全員の椅子を作り直す機会に、左足をのせる部分を少し改良しました。
本当は、本番の会場で練習できれば、もっと短時間で効率も良くなると思うのですが。練習では聞こえたのに会場でのゲネプロでは聞こえないなど、響きのバランス等が異なるため、何度練習しても会場での各人微調整が必要になると思います。お客様が来場されてさらに変わります。そのときに集中しづらい椅子に座っておりますと、きびしいものがあります。

 

岩槻

楽器によって体への影響は異なると思いますが、コントラバスは、腰に不都合が出る楽器のようですね。。

 

佐川

腰だけではなく、自分の経験では、首筋、手首、脇腹、の違和感ですとか、筋肉痛などがありました。降り番の方を引っ張り出したりすることがないように、お互いの健康を気にしつつ、日々努力いたしております。

 

岩槻

きょうはコントラバスの不思議解明、いろいろとありがとうございました。

 

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2010年6月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。