NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

佐々木 亮

佐々木 亮

ヴィオラ首席

ささき・りょう

埼玉県出身。東京藝術大学およびジュリアード音楽院卒業。1991年日本現代音楽協会室内楽コンクール第1位、「朝日現代音楽賞」受賞。1992年東京国際音楽コンクール室内楽部門第2位。アスペン音楽祭、マールボロ音楽祭に参加し、卒業後は、ソロ、室内楽、オーケストラ奏者として全米各地で演奏活動を行う。2004年5月1日N響入団、2008年1月より首席奏者。師に、掛谷洋三、澤和樹、田中千香士、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫、室内楽を兎束俊之、フェリックス・ガリミール、ジェーコブ・ラタイナー各氏。桐朋学園大学、洗足学園音楽大学にて後進の指導にもあたっている。

 

岩槻

東京藝大附属高校、藝大、ジュリアードにはヴァイオリンで進まれ、ニューヨークに留学中にヴィオラに転向なさったそうですが、その時すでに25歳。そのチェンジにはかなり勇気を要されたのではないですか?

 

佐々木

いいえ、そうでもありませんでした。25歳といってもまだ学生でしたから、この先どうなるかまだまだ模索していましたし、危険というよりも、興味が先に立ってまっしぐらに進んで行きました。

 

岩槻

ヴィオラを手にしたときから運命的なものを感じられたそうですね。

 

佐々木

はい。弦楽器奏者の方は大抵お持ちの感覚だと思いますが、弓を通して右手が弦にあたる感触がとても大事で、ヴィオラを弾いたとき、それまで何年も弾いてきたヴァイオリンと決定的なちがいがありました——摩擦がよりリアルで大きく感じるという。

 

岩槻

ヴィオラの方が、摩擦大きいですよねぇ。

 

佐々木

そうですね。ヴァイオリンの摩擦の少なさに、僕は元々欲求不満を感じていたタイプで、ヴィオラを弾いたときに得た手応え・満足感が、決定的でした。その時の楽器もすごくて、その時代のストラディヴァリと称されるプレッセンダ*でしたから。

 

岩槻

わぁー、それじゃあ衝撃も大きかったでしょうねぇ。
ニューヨークには故ディレイ先生に師事なさるためにいらしたわけですが、世界中から優れた方々が集まって来るジュリアードとは、どんなところでしたか?

 

佐々木

雰囲気はかなり厳しかったですね。門を入ると、顔見知りであっても挨拶しないんです。同一人物が一旦外に出てたとえば音楽祭などで会うと、「ハァーイ!」とか親しげなのに(笑)。

 

岩槻

ええっ?! アメリカじゃない〜! それだけ、お互いがライヴァルだということなのでしょうか。

 

佐々木

自身のことに没頭し切っているからなのでしょうか。建物もコンクリートの打ちっぱなしスタイルで、しかも練習室の階は窓がないのです。

 

岩槻

集中するという点では良いのでしょうが……

 

佐々木

僕はそこに、5年間——卒業後のプロフェッショナル・スタディーズも含めて——おりましたから(笑)。

 

岩槻

世界屈指の名教授ディレイ先生とはどのような先生でいらしたのですか?

 

佐々木

心理学等にたいへん精通なさっていらっしゃいました。生徒がどう反応するか、常に観察なさっていて、なにか、心理のやりとりを楽しんでいらっしゃるかのようでした。

 

岩槻

相手をよく見、相手によって対応を変える……

 

佐々木

まさにそうです。

 

岩槻

相手に合わせて教えるのですね。怒られたりは?

 

佐々木

ああー、怒るとスゴク恐かったです。レッスンで怒ったりなさることは滅多にありませんでしたが。

 

岩槻

技術に関してはどのようなレッスンを?

 

佐々木

僕がニューヨークに行った理由も1つにはそこにあったのですが、技術を教える点では世界一だと聞いていたからです。がしかし、それは予想とは少し異なる、というか、はるかに貴重な技術を身につけることができました。先ほどおっしゃったように、みんな世界中から結構自信持って集まってきているのですが、誰もが一から基礎をやり直さなければならないのです。そこでもう1度鍛え直すシステムなのです。

 

岩槻

基礎というと、ポジション・チェンジとかボーイングなどからやり直すのですか?

 

佐々木

はい。今まで漠然とやっていたことが、頭で整理されるのです。

 

岩槻

それによって数段レヴェル・アップできるのですか?

 

佐々木

つまずいた時に、どう直してよいか、自分で問題点を探しクリアできるのです——全ての事項がきちんと整理されているからこそ。いわば、自分で自分の先生になることを目指す方法なのです。

 

岩槻

他の国でもそういう教授法を行っている先生はいるのでしょうか?

 

佐々木

過去名教師と言われた人は、どうもそういうシステムを持っていたようで、その人が亡くなると、弟子が継承していくという……

 

岩槻

そのシステムはジュリアードの、なのですか?それとも……

 

佐々木

ディレイ先生のです。ディレイ先生の師であるガラミアンからのメソードにディレイ先生がさらにご自身のプログラムを加えて出来上がったものです。
音楽解釈の面で言えば、ディレイ先生の弟子のなかにも自分であまり考えずに弾いている人もいるわけで、そういう奏者には、ここをちょっと長くしてそこを弱くして、と指導し、その通りに演奏すると、まるで生徒自らが考えたかのように立派な演奏になるのです。

 

岩槻

うーむ。でもそういう方は、ディレイ先生がいなくなってしまうと困ってしまいますね…。そうでないタイプの生徒さんには?

 

佐々木

自分で考えてできる弟子には「こうやってみたら?」というアドヴァイス的な示唆で。つまり、あらゆるレヴェルで教えることのできる先生だったのです。

 

岩槻

アメリカでは卒業後、やはり厳しい競争のなかでオケなどのお仕事をされ経験を積まれてこられました。

 

佐々木

エキストラでメジャーから地方までいろいろなオケに行きましたが、正団員ではありませんので、経験豊かとは言えないと思います。

 

岩槻

2008年からN響の首席を務めていらっしゃいますが、首席のノウハウって、教わるものでもないように拝察していますが、どうやって身につけてらっしゃるのですか?

 

佐々木

ボーイングや指使いなどさまざまなことでやはり僕を見ているわけですから、僕がパニックに陥るとセクションも陥ることになりますので、なるべく全てのことに準備する——予め考えを決め、指揮者やコンサートマスターの指示と異なるときには対応する——ようにしています。しかし、自分が思っていることを伝えられる身体の動かし方が成功しているかどうか。まだまだソロ首席の店村さんから吸収し続けています。納得のゆく仕事ができるようになりたいです。

 

岩槻

室内楽も、岡山潔弦楽四重奏団で年2回活動なさっていらっしゃいますね。今後のご活躍をますます楽しみにしています。

 

*Giovanni Francesco Pressenda (1777-1854):19世紀初頭を代表するイタリアの弦楽器製作者。弟子にもロッカ(Giuseppe Antonio Rocca, 1807-1865)等の名工を擁した。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2010年1月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。