NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

今野 京

今野 京

コントラバス

こんの・たかし

東京都出身。東京音楽大学卒業。1987年4月1日N響入団。1992年文化庁芸術家在外研修員として、ベルギー王立アントワープ音楽院に留学し、翌年修了。その後、キジアーナ音楽院(伊)にてディプロマ・ディ・メリト賞受賞。フランダース国際音楽祭、アントワープ’93等の音楽祭やフランダース・オペラ管弦楽団、室内楽に出演し、イタリア、ベルギー、オランダ各国で演奏活動を行う。帰国後は、リサイタルの他、バッハ・コレギウム・ジャパン、オーケストラ・リベラ・クラシカ等で古楽器演奏にも精力を傾ける。師に、故・小野崎充、フランソワ・ラバス、エティエンヌ・ジーベンス、フランコ・ペトラッキ各氏。

 

岩槻

他の弦楽器は4弦なのに、コントラバスだけ、なぜ4弦・5弦と2種類あるのでしょう?

 

今野

コントラバスは、ヴァイオリン属(の大きなもの)ではなく、ヴィオラ・ダ・ガンバ属(仏:ヴィオール属)の最も大きなもの(コントラバス・ガンバまたはヴィオローネ)から今日に到った楽器です。宮廷音楽家が王の前で弾いていたガンバ属には様々な大きさがあり——現在はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの4種類ですが——それら多様な種類のガンバが下から上まで、広い音域をカヴァーしていました。その頃最低音域を担っていた最も大きなガンバの弦の数は5〜6本でした。コントラバスという表現を使われるようになってからは、地域によってまちまちで、元々イタリアやフランスでは3本とさらに弦の本数が少なく、ドイツは4または5本となりました。持ち運びできる楽器のなかで最低音を担っていたのが、16フィートの音域が出るガンバでした。持ち運べないものなら、教会オルガンの「Contrabass 32'」(注:32はパイプの長さを表し〔パイプのいわゆる足の部分を含まない〕32フィートの意味。32フィートの管に空気が送り込まれた時の振動数が16Hzで、そこで鳴るハ音がオルガンの最低音にあたる)がありますが、下の音域で人間が何の音か判別できるぎりぎりの音ですね。

 

岩槻

弦の数によって、何が違ってくるのでしょうか?

 

今野

弦楽器は弦の数が減るほど明るくなります。弦の数が増えると、弦を支えている駒が大きくなり、駒の高さ・広さに見合った力で弦を抑えるため表にかかる圧力が増え、そうすると共鳴が減り、音が暗く——というと語弊を生じるのですが——なるのです。要するに、弦の数は少ないほど明るいということです。ですから、3本が主流だった16〜17世紀イタリアのコントラバスはもっと明るい音だったのでしょう。
そして、5本、6〜7本のバス・ガンバが進化して現在のコントラバスになるのですが、その名残が5本のコントラバスだということです。

 

岩槻

N響では4弦と5弦はどんな比率ですか?

 

今野

セクション8人のうち、私と井戸田さん、稻川さんが4弦ですので、3:5になります。

 

岩槻

それは好みで選ばれているのですか?それとも指定があるのですか?

 

今野

指定はありません。

 

岩槻

5弦になると、音域が下に増えるのでしたよね?

 

今野

ええ、オーケストラの4弦の楽器の最低音はミですが、5弦になると4度下がり、シかドの音です。

 

岩槻

えっ、(〔上から〕ソ−レ−ラ−ミ)ド……?ドですと3度では?

 

今野

元々、ドが主流だったのですが、シにすることによって、指のポジション移動が(隣のミの弦と)同じなります。ヴァイオリンやヴィオラ等は5度調弦ですが、コントラバスは基本的には4度調弦なので、ミからドだけ3度調弦で、歴史的には4度と5度と3度が混在している楽器もありました。

 

岩槻

え、そんなにフレキシブルなのですか?

 

今野

元々コントラバスは、弦楽器のなかでもいろいろな調弦方法をとってきた移調楽器で、さらにソロで弾く場合とオーケストラとでは調弦も違い、ソロでは各弦、長2度上げます。上げることによって開放弦が1音ずつ上がるわけです。

 

岩槻

押さえるポジションも変わるんですか?

 

今野

いいえ、出る音が変わるということです。
ソロの楽譜は、ピアノ譜より1音低く書かれているわけです。コントラバスの譜面にハ長調でドレミファソラ…と書かれてあれば、例えば伴奏のピアノ譜にはニ長調—レミファソラシと書かれているわけです。

 

岩槻

こんがらがっちゃって私には弾けないわ……

 

今野

そういう方が増えてきたので、コンチェルトでソロを弾く場合もオーケストラの調弦のままにした方がいいという動きもあります。しかし、音色がかなり異なりますので、その点どうかな?という意見もあります。

 

岩槻

指を押さえる場所で出る音を覚えていると、逆に苦労しそうですね……。コントラバスの調弦は、歴史的にもフレキシブルだったのですね。

 

今野

ええ。ハイドンやモーツァルトが好んでいた「ヴェニーズ(ウィーン)・チューニング」は、5弦で、上からラ−ファ♯−レ−ラ−ファ、音程にすると3度・3度・4度・3度というもので、開放弦の上から3本によってニ長調の主和音が得られます。歴史的にも多種多様な調弦法がありましたので、どれが正しいと断じることはできないでしょう。

 

岩槻

ウィーン・チューニングの方がモーツァルトの曲は弾きやすい……?

 

今野

発音も良いし、ピュアーな音が響き渡ります。ハイドンはコントラバスが腕を振るう部分をたくさん書き、コントラバスの地位向上には多大に貢献した作曲家と言えるでしょう。モーツァルトはコントラバスを愛したひとりで、きっと想定する名手がいたのでしょう。ハイドン先生から受け継いだ、モーツァルトはコントラバスの発達に大いに貢献し開花させた作曲家です。それまではイタリアにしてもフランスにしてもコントラバスには活躍するというより、最低音でその調性の主音を演奏する程度のものでした。

 

岩槻

バロック作品の演奏ではどうするのですか?

 

今野

ピッチはもちろん、弦も張り替えます。現在、a=442Hzぐらいですが(ちょうどまんなかあたりのラの音の振動数)、バッハやヘンデルでは415Hzです。現在弦楽器はスチール弦が主ですが、1600、1700年代スチール弦はありませんでしたのでガット弦(羊の腸)に張り替え、テンションもその年代に合わせています。

 

岩槻

テンションですか?

 

今野

ハコは同じですが、今は大きなホールに見合うように、指板の角度を高くし、駒も高くし、張りの良い弦からパーンという音が出るようになっていますが、当時は指板も駒の作りももう少し平でテンションを低くし、染み渡るように響かせていたわけです。

 

岩槻

ほぅ……。ところで今野さんは、N響唯一のフレンチボウ(下手持ちのジャーマンボウに対し、弓を上から持つ)の使い手だそうですね

 

今野

アントワープに留学した折、本格的に勉強し、とても魅力を感じました。それに、ヴァイオリンやチェロの高名なソリストを迎えた際、弓の持ち方は同じわけですから、とても勉強になっているのです。

 

岩槻

でも、少数派なのですか?

 

今野

いやいや、イタリア、フランス、オランダ、アメリカ、南米……世界的に見ても半々ではないでしょうか。N響の前身である新交響楽団時代、先輩方5人のうち3人がフレンチボウだった写真を見たことがあります。

 

岩槻

今野さんは、独・仏・伊・蘭・英と、5か国語を喋れるとお聞きしました!

 

今野

喋れるなんて、とんでもありませんが、留学したベルギーは、独・仏・蘭が公用語、プラス英語が使われている国で、レッスンでも先生が生徒によって4か国語を使い分けます。N響も、私が入団した頃、シュタイン先生やスウィトナー先生の練習はドイツ語でしたよ。今は英語がほとんどですが。

 

岩槻

N響の皆さんの語学能力も素晴らしいですね!貴重なお話をいろいろありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2009年12月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。