NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

今井仁志

今井仁志

ホルン

いまい・ひとし

愛媛県出身。東京学芸大学卒業。在学中にオーケストラ・アンサンブル金沢入団。1996年ミュンヘン・リヒャルト・シュトラウス音楽院留学。1997〜1999年東京交響楽団在籍。2000年1月1日N響入団。師に原田晃祝、伊藤栄一、千葉馨、エリック・ティルヴィリガー、デイル・グレヴェンジャー各氏。

 

髙橋

ホルンって綺麗な形だなって、常々思っていました。

 

今井

ミュンヘンに留学したとき先生から、「こんな美しい楽器が吹けることに感謝しなさい」とか「毎日キスしてから吹き始めなさい」って言われました。キスするほどではありませんが、僕にはやはり他の楽器より美しく見えます(笑)。

 

髙橋

きっかけはブラスバンドですか?

 

今井

小学校のときに器楽合奏クラブに入ったのですが、それはアコーディオンが主体で、その他にメロフォンという楽器がありました。子どもの教育用に開発された楽器で、ホルンと同じように管は巻かれてありますが、管長はホルンの半分です。ホルンは管の長いことが音のはずれる原因の1つになっていますので。
中学にもブラスバンド部がなかったので、本物のホルンが吹きたくなって、両親に誕生日プレゼントを買ってくれるのならホルンがほしいと頼んで買ってもらいました。

 

髙橋

買ってくださったのですか?

 

今井

はい。

 

髙橋

すごい!高校でブラスバンド部に入られたのですね。

 

今井

はい。僕が進んだ松山東高校のブラスは、県の代表にたびたび選ばれるほど盛んでした。ブラス自体も充実していたのですが、みんなで瀬戸内海の小さな島へフェリーで行き、かくし芸大会をしたり、ソフトボールをしたりしたことがとても楽しい思い出になっています。

 

髙橋

オーケストラ・アンサンブル金沢に入団なさったのは大学在学中ですが、早くからプロを目指していたのですか?

 

今井

オケに入れればという思いは漠然としたもので、現実的には教師を目指していました。ところが、教育実習で学芸大附属高校に行ってから僕には向いていないと感じ始めて、4年生の頃には、ホルンをがんばるか音楽関係の出版社を受けようかと迷っていた時、師事していた千葉馨先生に「本当にやる気があるなら、新しいオケができるから受けてみないか」と勧められて受けたのが、オーケストラ・アンサンブル金沢でした。すでに歴史を積んできたオケにはその歴史を引き継ぐ古参の団員もいるだろうし、音大出でもない僕がもしそういうオケに入っていたらやっていけるかどうか……。新設のオケなら皆若いだろうし、周りに助けられながらなんとかやっていけるだろうと。実際、設立当初、僕と同い年ぐらいの方が多かったです。そしてオーケストラ・アンサンブル金沢で鍛えられて演奏家になっていったと言えるかもしれません。

 

髙橋

岩城宏之さんが率いられていたわけですが、いまでも覚えている言葉などありますか?

 

今井

とにかく「ホルンは間違うな」と言われました。今はもう間違いなど許されなくなりましたが、何十年か前までは、音がはずれても仕方がないと思われていた楽器です。たとえばなにもキーを押さえない場合、息の強さや口の緊張の度合い等によってド・ミ・ソ・♭シ・ドの音が出てしまう楽器で、同じ指遣いでもいろいろな音程が出てしまうのです。

 

髙橋

「演奏のいちばん難しい楽器」と言われているそうですね。

 

今井

今はもう間違いのないことが当たり前になってきましたが、当時から岩城先生は「難しいのは分かっているが、とにかくはずすな」ということを要求されていて、プロとして通用する奏者に鍛えられた日々だったと思います。

 

髙橋

そのような構造の楽器で“確実”に演奏するのは実はとてもたいへんなことなのですね。

 

今井

いくら練習しても結局は本番の精神状態・筋肉の状態に左右される部分も多いので、こうすれば9割方はずさないなという感覚を確実にするということが“練習”だとも言えるでしょう。こういう精神状態のときでも、たとえば口元をこうすればはずさないという方法を練習で確実にするということでしょうか。

 

髙橋

微妙な感覚を常に保っていなければならないなんて……

 

今井

1日でも練習を欠かすと感覚が鈍って筋肉が落ちるような気がします。実際、この口元の——ほほ笑みを作るときの——筋肉は、衰え易いので。

 

髙橋

本番前の調整も気をつかいますか。

 

今井

笑い過ぎるとその筋肉がつかれてしまうので、おかしな人とは話しません(笑)。

 

髙橋

練習によって筋肉も鍛えられているのでしょうね。

 

今井

そうだと思います。若い頃と頬のふくらみがちがいますので。

 

髙橋

息は続く方ですか?

 

今井

からだが小さいせいか続かないのが悩みのタネです。そのかわり、音楽の流れを壊さないブレス・コントロールなど、いかに効率良く息を使い、長いフレーズを可能にするか、さまざまな方法を試しています。

 

髙橋

ホルンは2本を一組にして、2本で「1管」と数えるそうですが、2本一組なのは和音を作るためですか?

 

今井

ホルンの特徴の1つは、セクション楽器だということです。たとえば2管編成(ホルンは4本)の場合——ブラームス等で顕著になってくるのですが——1番の人が旋律を吹き、2番の人が(たいていは3度下の音で)1番を支え、3番が1番ホルンに重なるような旋律線で出ると、4番がその下を支える、というような構造で、4本でハーモニーを作るのです。

 

髙橋

本番前にはどのようにして緊張を取り除いていらっしゃるのですか?

 

今井

僕は、いつもとちがう雰囲気だとだめなので、いつもの状態をキープします。

 

髙橋

本番は一度きりの一発勝負。キマッた時は最高なのでしょうね。どうかご活躍をお祈りしています。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2008年6月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

髙橋美鈴

聞き手

髙橋美鈴

たかはし・みすず

NHKアナウンサー。北海道出身。東京大学卒業。1994年NHK入局。「美の壺」「日本の伝統芸能」等や、「探検ロマン世界遺産」リポーターとしても活躍。