NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

栗田雅勝

栗田雅勝

トロンボーン首席

くりた・まさかつ

岡山県出身。東京藝術大学卒業。1980年西ベルリン音楽学校に留学、1981年ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団契約団員となる。1982年帰国、ソロ活動とともに、東京トロンボーン四重奏団での演奏も活発に展開。1989年9月1日N響入団。師に、伊藤清、クルト・プチケ、ホルスト・ラーシュ、ウォルフガング・ハーゲン各氏。

 

岩槻

トロンボーン・セクションはとても和やかなセクションだというお話を伺ったことがあります。

 

栗田

おそらく、和やかという意味ではN響のなかで最も良い人間関係を築いているセクションかもしれません(笑)。年齢的にも、20代、30代、40代、50代と各世代がおり、とてもバランスがとれています。

 

岩槻

トロンボーンの方って、アマチュアでも朗らかな方が多く、ハタで拝見していても和気あいあい、楽しそうにお見受けします。

 

栗田

そういうイメージなのですね。でも、そうでない所もあるのですよ。

 

岩槻

意外です!

 

栗田

僕たちも、オフの日にどこかいっしょに行ったりは、あまりしません。しかし、いくらプロだとはいえ、共に演奏するわけですから、特別仲良くする必要はなく、マイナスのつきあいをしなければいい、という基本線の上で、とても良好な関係が築けています。

 

岩槻

年代構成も素晴らしくうまくいっていますね。

 

栗田

それは意図してきたことでもありますが、結果的にみてうまくいったと思います。技術面だけで採用し続けるとどうしても年齢的な偏りが出がちです。気がつくとセクション全員50過ぎという厳しい結果を招いてしまいますので。

 

岩槻

素人から拝見しますと、大きな音を出す楽器で、体力的にとてもたいへんそうですが。

 

栗田

小さい音も出していますよ(笑)。ソロやアンサンブルでは小さな音を美しい音色で出すパッセージも多く、神経を使うという意味では、そちらも相当な労力を要します。しかし、オーケストラでトロンボーンに求められるものは和音ですから、目立つのは大きな音になるのでしょうね。

 

岩槻

音量キープのために、なにかトレーニングはなさっていますか?

 

栗田

若い頃、やらなくちゃと思い、水泳やジョギングをしていた時期もあります。今は毎日、散歩だけ。吹きながら鍛え、キープしています。

 

岩槻

栗田さんぐらいになるともう、ロング・トーンはなさいませんか?それとも、やはり今でもなさいますか?

 

栗田

私は毎日1時間やります。これには個人差があるでしょう。私は「やらなきゃ」と思い込んでしまっているので。

 

岩槻

今でも1時間?!まさに吹きながら鍛えているんですね。

 

栗田

アンブシュア(管楽器を吹くときの唇や口の形)の筋肉は、演奏や練習によって、いわゆる「バテる」という感覚になります。次の日にその「バテ」が残らないようにしています。20代30代の頃は、結構ハードに練習しても、次の日、完全にリセットされて元気元気という感じだったのですが。

 

岩槻

理想とする音色は?

 

栗田

全ての音域で、倍音の多い、艶っぽい響きが立ち上ると良いですねぇ。しかし、年齢を重ねてくると音が固くなる傾向がありますので、そうならないように心がけています。

 

岩槻

トロンボーンは“待ち”の楽器で、第1〜3楽章の間ずっとお休みで、第4楽章冒頭でいきなりフォルテ全開という曲もありますね。

 

栗田

“待ち”が昔ほど苦にならなくなってきたのは、経験(年?)が物を言っているせいでしょうか。若い頃は多くの不安が頭をよぎっていました。

 

岩槻

今は、待っている間は……

 

栗田

無、であり、かつ、どんな演奏を指揮者が求めているのかを聴くようにしています。不安材料ばかり気にしていても良くないので、流れに乗って、自分の演奏がしやすい状況を作るようにしています。

 

岩槻

たとえば、有名なベートーヴェンの《交響曲第5番》では、トロンボーンは第4楽章で初めて、パーンと入っていきます。楽器は冷えてしまっているのでは?

 

栗田

そうです。夏でも、クーラーが効いていると冷えてきます。物理的な面だけではなく、第1楽章からずーっと弾き続けてきた他のセクションの方は精神的にも最高に温まっているわけです。そこに、今まで1音も吹いていなかったわれわれがテンションを同じくしてパーンと入って行かなければならないということです。

 

岩槻

イメージし続けているのですか?

 

栗田

そうですね。

 

岩槻

“待ち”が長い作品こそ、技術的・精神的にとてもたいへんな作業が繰り広げられているのですね。
今年で入団20年目ですが、入られた頃のN響と今のN響との違いは感じますか?

 

栗田

あっという間の20年でしたが、ずいぶん変化しました。長い歴史のあるオーケストラですが、昔はあまり決まり事がなく、さまざまな面でバラバラな感じがありました。しかし今の若いメンバーを見ていますと、演奏の面でもマナーの面でも、良いオーケストラになってきたなと思います。
ただ、演奏団体としてN響がこれからどこに向かっていくのかが問題だと思うのです。その役目を担うのが、音楽監督でしょう。デュトワ、アシュケナージの後、空席になっていますが。将来どういう方向に行くべきか、音楽監督が示してくれることに期待しています。長いスパンで率いてくれることによって、このオーケストラが世界一流になれることを期待しているからです。そのための下地はもう、できていると思います。

 

岩槻

どのような指揮者に期待しますか?

 

栗田

そうですね……N響は巨匠クラスの登場が多いのですが、10年20年とつきあっていけるもう少し若い方も必要だと思いますね。

 

岩槻

栗田さんが今、共演してみたい指揮者は?

 

栗田

ズービン・メータです。もっといっしょに演奏したいと思います。1996年11月にマーラー《交響曲第1番》を指揮しました。2日遅れて来日し1日だけの練習でしたが、とても感動しました。

 

岩槻

N響の今後に対するお気持ち、お聞かせいただきまして、ありがとうございました。

 

 

 

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2009年12月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。