NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

久保昌一

久保昌一

ティンパニ&打楽器

くぼ・しょういち

鹿児島県出身。東京音楽大学卒業。1987年からベルリン芸術大学(当時西ベルリン)に3年間留学し、元ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席ティンパニ奏者オスヴァルト・フォーグラーに師事した。ベルリン滞在中は、ベルリン・ドイツ・オペラで活躍。帰国後読売日本交響楽団ゲスト・ティンパニ奏者等も務める。1993年4月1日N響入団。1990年代初頭、シュターツカペレ・ドレスデン首席ティンパニ奏者ペーター・ゾンダーマンがN響にゲストで来ていた折、氏に指導を受ける。現在、東京音楽大、武蔵野音楽大学で後進の指導にもあたっている。

 

岩槻

高輪の練習場には何セットぐらいティンパニがあるのですか?

 

久保

プレミア(イギリスのブランド・メーカー)が6台、ギュンター・リンガー(旧西ドイツ)が4台——このブランドはもう造られていません——、その流れを汲むベルリンのウォルフガング・ハルトケが6台、アダムス(オランダ)が4台、計20台ほどで、そのなかであまり使わない1セットが倉庫に預けられています。
大体定期で使うのはリンガーかハルトケで、タン・ドゥンのような特殊奏法の多い作品では、プラスチックヘッドのプレミアを使うことが多いです。

 

岩槻

高校時代、ブラスバンドで私は打楽器パート担当だったのですが、その頃はティンパニのヘッドというものはプラスチックだと思っていました。

 

久保

岩槻さんの高校時代には既にプラスチックヘッドが普及していたのですね。プラスチックヘッドが発明される前は動物の皮が張ってあり、当然プラスチックヘッドではありませんでした。

 

岩槻

今はみなプラスチックヘッドですか?

 

久保

中学校や高校にあるティンパニはほとんどプラスチックですね。N響のティンパニは、プレミア以外は仔牛の皮を張ってあります。皮のティンパニは、大概仔牛か山羊のどちらかなのですが、N響にあるのは仔牛です。音色がちがいます。

 

岩槻

オケによって、それはちがうのですか?

 

久保

ええ、たとえばウィーン・フィルは山羊、ベルリン・フィルは仔牛とか、オケの特色等によって異なるのだと思いますが。

 

岩槻

音色のちがいって、たとえば聴衆にも分かりますかね?

 

久保

打楽器に詳しいお客様ですとお分かりになるようです。見た目的には、山羊は白っぽく、仔牛は肌色に近い色です。

 

岩槻

ティンパニの並べ方についてですが。

 

久保

西洋の楽器の音高の並びは、たとえばピアノのような鍵盤楽器を想い浮かべていただくと分かり易いと思いますが、演奏者から見て右に行くほど音域は高くなり、張ってある弦も短くなります。しかしティンパニのセッティングには、その並びとその逆からの2種類あり、右手に行くと楽器が小さくなる(直径が短くなる)——つまり音高が高くなる——アメリカン・セットアップと、左側が小さくなるジャーマン・セットアップという2つの方法があるのです。今のN響は全員ジャーマン・セットアップです。歴史的にはジャーマンの方が古く、19世紀後半、他の音高の並び方に合わせた合理的なセッティング方法をティンパニにも適用したアメリカン・セットアップが登場し、2つに分かれました。

 

岩槻

日本のオケは?

 

久保

アメリカン・セットアップがほとんどでしょうか。僕の入った頃のN響はアメリカン・セットアップでした。

 

岩槻

マレットをかける場所が、だから久保さんの場合には、マレットを取りやすい左側にあるのですね、左の方が小さい楽器なので。
ティンパニには、縁の下の力持ち的な時と華やかに打ち鳴らして活躍する時など、さまざまな場面がありますが、久保さんはどういう曲にやりがいを感じますか?

 

久保

曲に溶け込んで、大したことをしているようには見えないけれど、本当は大事な仕事を人知れずしている、というのがいいです。

 

岩槻

マレットは皆さんご自分で作るのですか?

 

久保

はい、自分でも作ります。でもこれは演奏者によります。他の人に作ってもらい自分では全く作らない人もいます。フォーグラー先生はレッスンの時にいつも作れ作れとおっしゃり、ご自分では作らず、弟子が作って良いのがあると持って行かれていました(笑)。自分のマレット・ケースには何十組入っていて、きょうはこんな感じかな、と出してきます。

 

岩槻

えっ、きょうは?

 

久保

N響の場合、高輪の練習場と、NHKホールでは音響状態が全くちがうので、練習で使っていたものをそっくりそのまま持って来ても……。ですから、音色や音量を練習場で細かく仕上げても意味がない場合があるのです。

 

岩槻

公演するホールで確かめながらなのですね。ティンパニ奏者が複数求められている曲がありますが。

 

久保

マーラーは、第1、3、6、8、9番に2人、第2番には3人と、複数登場する交響曲が多いです。ベルリオーズ《幻想交響曲》第3楽章「野の風景」で雷が遠くから聞こえるという部分では4人で最後に奏します。他の打楽器を担当していた奏者も最後に4台のティンパニ——上から、へ−ハ−変ロ−変イに調律——の所にやってきて同時に演奏します。

 

岩槻

ご自宅の練習場には何台ティンパニを置いていらっしゃるのですか?

 

久保

7台。ウィーンに2台注文しましたのでそれが届くとまた増えます。

 

岩槻

打楽器の楽譜は休符も多く、パート譜を見ているだけでは落ちそうになってしまうこともあるのではないかと思うのですが、スコアも見ながら勉強なさるのですか?

 

久保

フォーグラー先生は「覚えなさい」とおっしゃっていました。僕もよく演奏する曲はなるべくそうしています。楽譜は安全のために置いてあるという感じです。兄弟子で北ドイツ放送交響楽団ティンパニ奏者のシュテファン・キュリス(Stephan Cürlis)は、どの曲もみな暗譜で演奏するため、ティンパニの前に譜面台がないのです。ウィーン・フィルのブルーノ・ハルトゥル(Bruno Hartl)もほとんど暗譜で演奏していますね。

 

岩槻

ティンパニは一番高い所にセッティングされていて、全体がよく見える位置にありますが。

 

久保

何となく全体が視界に入っています。譜面台に目をやっていても、指揮者の動きは見えています。ゾンダーマン先生は「譜面台を低くして演奏しなさい」とおっしゃっていました、譜面台が高いと前の管楽器群が見えなくなるからと。

 

岩槻

久保さんも低めですか?

 

久保

ええ、みんなの雰囲気が伝わってきますし、ブレスのちょっとしたタイミングなど、見えていたいので。

 

岩槻

きょうは注目すべきポイントをいろいろ教えていただき、ありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2009年10月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。