NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

加藤明久

加藤明久

クラリネット

かとう・あきひさ

東京都出身。国立音楽大学卒業。民音主催第16回東京国際音楽コンクール室内楽部門第1位、日本クラリネット協会主催日本クラリネットコンクール入賞(1984、1988)、ミュンヘン国際音楽コンクール木管五重奏部門ファイナリスト(1985)。1990年10月1日N響入団。

 

岩槻

クラリネット・パートはおしゃれな方が多いそうですね?

 

加藤

先輩方にもダンディーな方が多いですよ。

 

岩槻

加藤さんご自身、おしゃれのセンスはN響有数とうかがっています。カラーページでないので写真では分かりにくいかもしれませんが、今日もグリーンのジャケットが本当に素敵です(カメラマンも頷く)。みなさんのお買い物にも付き合ったりするのですか?

 

加藤

入った頃はありました。

 

岩槻

バスクラリネットをお持ちになっている姿が印象的なのですが、バスクラリネットや特殊管は加藤さんの担当ですか?

 

加藤

一応そういうことになっています。今は2人若いメンバーが入りましたので3人で担当を回しています。

 

岩槻

持ち替えも多いと思いますが、Es管・A管など、管が異なる楽器を1曲のなかでいくつも使い分ける時、何が一番大変ですか?

 

加藤

まず、ハードの仕込みに数倍かかることです。リードもいっぱい用意しないといけません。

 

岩槻

それぞれの楽器に必要ですものね。多い時で何管持つのですか?

 

加藤

マーラーの《巨人》では4本要求されています——A管、(B管)、Es管、バスクラ、C管。リードは3種類必要です。

 

岩槻

となると、リード代もそれなりに・・・?

 

加藤

特殊管のリードは倍の値段なんですよ、ふつうのB管の10枚分が、特殊管5枚の値段ですから。

 

岩槻

はぁぁ。ところで、曲中たくさんの楽器を全てベストの状態に保っておくのも大変だと思います。

 

加藤

30分以上間が空く時は、リードの付いた吹き口が乾かないように蓋をしてケースにしまい胸のポケットに入れています。今のように湿度計が30%を指している時期にちょっと油断したりした日には、ワカメみたいになっちゃいますから。それほど長く空かない場合には、譜面台に置いていますが、昔は譜面台のエンピツを置く細いスペースに置いていましたので、たまに落として下向いてガチャガチャしたり。

 

岩槻

譜面台の陰に隠れちゃっている人は、そういう細かい作業をしているわけですね(笑)。

 

加藤

今は譜面台にお皿のような所を作ってくれましたので、水も置けますし、バスクラの吹き口も転がることなく置けますし。

 

岩槻

いちばん多い時で何回持ち替えますか?

 

加藤

1曲で70回ぐらい持ち替える時もあります。

 

岩槻

ひぇ〜。そうすると数小節で何度も持ち替えなければならない時はどうするんですか?

 

加藤

もちろん置く場所は決めていますが、数秒間隔で右に置いたり左のを取り上げたりという手作業を素早く繰り返している姿は、まるで手品のようですよ。

 

岩槻

ふふふ。指遣いも楽器によって違うんですか?

 

加藤

んー、つまり、全管同じ指遣いで「ドレミファソラシド」と出ているのですが、音自体は異なるわけで、それが1本の譜面にEs管とB管が数小節で、または1小節内に出てくると、同じ指遣いで、Es管ならミ♭、B管ならシ♭が鳴りますから、絶対音感に縛られている人はなかなか混乱してしまうかもしれません。僕たちにとってどちらもドはドなんですけど。

 

岩槻

オーケストラは基本的に、向かって左から右へ音域の高い楽器から低い楽器が配置されていますが、バスクラリネットを持っている時、加藤さん、左の方にいませんか?

 

加藤

そうなんです。クラリネットの仲間から離れているので仲間といっしょにタイミングを合わせることもできないし、指揮者を見て合わせるのも難しいし、ですからコントラバスの弓の動きを見て合わせています。なので僕だけみんなとちがう方を見ているかも。しかもバスクラリネットってまっすぐ立てると前が見えなくなっちゃいますから、僕は左目が利き目ですので、完全にハスに構えたモナリザ体勢です。

 

岩槻

常にナナメ45度の男。

 

加藤

スヴェトラーノフなどがする対向配置の時は、コントラバスが向かって左に配置されますので、僕にとってはすぐそばに来てくれたコントラバスに後から押してもらってるみたいで、合わせやすいし、とてもいいですよ。

 

岩槻

持ち替える管が何本もある場合、最初のチューニングの時はどうなさっているのですか?

 

加藤

10秒ほどの間に4本も5本も抱えて、そんなこと言っていられませんよ(笑)。

 

岩槻

じゃあどれか1本だけしかできない?

 

加藤

そうなのですがしかし、他の木管楽器とちがって吹き口の抜き差しが自由ですので、クラリネットの人はその場その場で常に調節しています。バスクラリネットなら、足元近くのトーンホール(孔を蓋するふた)を上げたり下げたり。トーンホールを上げれば音程が少し上がりますし下げれば音程が少し下がりますし。

 

岩槻

それを足でやるんですか?

 

加藤

れっきとした技です。

 

岩槻

クラリネットには、ドイツ式とフランス式があると聞きましたが、N響は?

 

加藤

磯部さんは指使いはわれわれと同じですが、ドイツ式。他の4人はフランス式の同じ楽器を使用されています。今、世界でドイツ式を使っているオーケストラは、ドイツとオーストリアだけかもしれません。

 

岩槻

つまり、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団などですか?

 

加藤

はい。見た目の違いですぐ分かる点は、リードがマウスピースに糸で結びつけられている方がドイツ式です。フランス式に比べて内径が細いため、大きな音ではありませんが柔らかな音が出ます。また、キーが少ないため、より自然な発音の音が多いと言えるかもしれません。ラヴェルやドビュッシーをこのドイツ式でしょっちゅう演奏するのはきびしいかもしれません。もちろんドイツ式で見事にフランス近代を演奏する方はいらっしゃいますので、その組み合わせが全くないわけではありません。

 

岩槻

思い出深い指揮者の方は?

 

加藤

演奏に関しては挙げきれませんが、“個人的交流”で思い出に残っている1人が、マエストロ・スクロヴァチェフスキ。2004年にいらした時にいつもの付き人がいなくて、タイを結べる人——前で結んできれいに作り上げて後ろで止めるタイプ——を探してらしたので、結んで作ってあげたことがありました。CDいただきましたよ。

 

岩槻

まだまだいろいろ愉快で楽しそうな交流がありそうですね。本当に楽しいお話、ありがとうございました。

 

写真撮影 ― 堀田正矩
「フィルハーモニー」2009年2月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。