楽器は音楽を表現するための手段だととらえています
岩槻
オーケストラの打楽器奏者はいろいろな楽器を担当されますが、一番好きな楽器は何ですか?
竹島
それは難しい質問ですね。特別な楽器というのはなくて、どの楽器も好きです。楽器は音楽を表現するための手段だととらえているので、その手段への特別な執着心はないですね。もちろん英語よりは日本語のほうが話しやすいといったような程度の違いはありますけれど。
岩槻
そうなんですか。楽器のことよりも、音楽を作り上げていくことが喜びなんですね。
竹島
そうですね。僕はN響に打楽器奏者として参加していますけれど、普段はピアノも弾きますし、作曲をすることもあります。定期公演の開演前のロビーコンサートで、ピアノを弾かせていただいたこともありました。ピアノだろうと打楽器だろうと、いっしょに音楽を作ることには変わりはないと思うんです。たまたま僕は打楽器奏者なので、その手段、つまり楽器の種類が多いわけですが、これでなければ僕の言葉は伝えられないという楽器を持とうとはしていないんです。
岩槻
あえて楽器に執着しない?作曲家とか指揮者タイプかもしれませんね。
竹島
よくそう言われます。小さい頃からヤマハの音楽教室で学んできて、マスタークラスではピアニストの上原彩子さんと一緒でした。高校2年生くらいまでは作曲かピアノで音大に行く準備をしていたんです。ひょんなきっかけで打楽器で大学に入るということになりましたが、ずっと作曲とピアノの勉強をしてきた分、スコアを読むといったようなレッスンも受けてきたんですね。打楽器奏者はブラスバンドで初めて打楽器に触って、そこからおもしろくなって本格的に学ぶ、という方が多いですが、僕は少し異端児なのかもしれません。
岩槻
曲をさらうときはパート譜だけではなく、スコアもご覧になるんですか。
竹島
そうですね。オーケストラの中にいるわけですから、まず打楽器奏者としてやるべきことは、きちんとやらなければいけない。ここはこういうテクニックにしようとか、まず打楽器奏者としての観点でパート譜を読んで、それを全部終えた後にオーケストラ全体のことを見ます。僕のいる場所からはみんなの背中しか見えないので、メンバーとコンタクトを取るために、今日は誰がステージに出演していて、その人たちが何をしているのかということに意識を持っていく。自分のことも大変なのですが、自分と仲間たちの音があわさって音楽になることを目指すべきだし、それがオーケストラの醍醐味だと思うんです。そのためにスコアを見ると、ここはどう書かれていて、あの人がこうやってきたところで自分が入るんだな、とかよくわかるんですね。
岩槻
演奏中も緻密なことが行われているんですね。
竹島
一つの音を作るときに、例えばシンバルはこうしようというのではなくて、シンバル+クラリネット+ヴァイオリンの音をどうしよう、というふうに考えたいんです。だから今日のクラリネットは誰が吹いているのかによっても、音が違ってきます。自戒も込めてなのですが、自分のことに執着しすぎると、そこで完結してしまうんです。せっかく約80人で一緒にやっているのだから、その80人にしか出せない音を作りたいですね。
岩槻
作曲は今もされていますか?
竹島
作曲活動とピアノはずっと続けています。2年に一度定期的にリサイタルを開いていて、そこで打楽器もピアノも演奏しますし、そのために作曲や編曲もします。いろいろなことをしますが、最終的には、お客さんと一つの空気を作るということだけなんですよ。お互いに、ああ楽しいねといえるような空気を作ることができたらいいなと思っています。
文 ― 飯尾洋一/ 写真撮影 ― 松井伴実
「フィルハーモニー」2011年1月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。