NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

水谷上総

水谷上総

ファゴット首席

みずたに・かずさ

京都府出身。京都市立芸術大学音楽学部を経てデトモルト北西ドイツ音楽アカデミーに留学し、最優秀で卒業。ライン・ドイツ歌劇場管弦楽団、群馬交響楽団でファゴット奏者を務めた。これまでに仙崎和男、光永武夫、ヘルマン・ユンクの各氏に師事。2001年4月1日入団。首席ファゴット奏者。東京音楽大学兼任教授、東京藝術大学非常勤講師として後進の指導にもあたっている。

 

普段は目立ちませんが、時々豹変するんです

華恵

中学校の吹奏楽部が楽器との出会いですか?

 

水谷

クラブの顧問の先生に、「背が高いから」とユーフォニアムを強制的に勧められて始めました。ファゴットを始めたのは高校2年生の後半です。ユーフォニアムはオーケストラでは使われない楽器なので、どうしてもオーケストラの中にある楽器に変わりたいって先生に直訴しまして。ファゴットだったら変わってもいい、と許されたので。本当はもっと違う楽器がやりたかったんですが。

 

華恵

オーボエかホルンがやりたかったそうですね。ネットで調べてきました(笑)。

 

水谷

そんな情報まで分かるんですか。ネット方面は疎いので……。

 

華恵

ファゴットの演奏家として進む覚悟はいつ頃できたんですか?

 

水谷

音楽大学を卒業してすぐにドイツに留学したあたりからですね。

 

華恵

何か出会いがあったのですか?

 

水谷

大学の4年間でファゴットの魅力が分かって、取り憑かれたんです。

 

華恵

逆に言うと、大学に入る時点ではまだ覚悟はなかったんですか。

 

水谷

その時はまだですね。

 

華恵

オーケストラの中でファゴットを吹く魅力はどんなところですか?

 

水谷

例えばブラームスでもチャイコフスキーでもショスタコーヴィチでも、ファゴット協奏曲も、ソナタ、そしてファゴットを含む室内楽曲も書いてない。だからファゴットのソリストだと、例えばその3人の作曲家の曲を演奏することができないわけですよね。でもオーケストラにいたら、彼らがファゴットのために書いてくれた素敵な旋律を演奏することができる。ファゴット奏者の中で最高の仕事というのはソリストではなくてオーケストラの中で演奏することだと思っています。

 

 

 

華恵

首席奏者としてはどんな役割なんですか。

 

水谷

ファゴットの場合は、楽器自体が普段は縁の下の力持ちのように、他の管楽器の方が安心して気持ちよく演奏できるように支えてあげる役割です。ただ首席、すなわち1番ファゴットの場合は、時々豹変して他の楽器を押し退けてまで自分を目立たせることも必要になります。

 

華恵

二面性があるということですか?

 

水谷

そう。まさに「ダブル・リード」、二枚舌です(笑)。

 

華恵

性格的にも二面性をお持ちですか?

 

水谷

他のファゴット奏者同様、控えめなタイプだと思いますが、自分の中に本当はそういう目立ちたい性格も実はあるかもしれないですね。

 

華恵

そっちの性格も前に出ることがあるんですか?

 

水谷

時々、豹変します。あ、演奏上のことですよ(笑)。

 

華恵

N響に入られた当時と比べて水谷さんの中で音楽は変わってきていますか。

 

水谷

入団して12年ぐらいですが、少しずつ奏法をマイナーチェンジしながら、昔は筋肉だけで吹けていたところを少し脂肪を使って吹くようにしたり、そういうことは意識的にやっています。

 

華恵

オーボエやホルンといった他の楽器を遊びで吹くこともないですか?

 

水谷

今はファゴット一筋です。

 

華恵

一つのことをまっすぐやり続けてこられたんですね。

 

水谷

先生とか他人に言われると反抗せずにそのまま従ってしまうタイプなので。

 

華恵

音楽においてもですか?指揮者の考え方とぶつかることなどないですか?

 

水谷

心の中での葛藤はよくありますが、表に出すことはないですね。逆の体験があります。ビシュコフさんがチャイコフスキーの《交響曲第4番》を振られた時は、おっしゃることすべてが得心のいくことばかりで、自分が持っていたイメージと全く同じことをおっしゃったので、本当に気持ちよく演奏できました。稀な経験でした。

 

華恵

お話を伺って、ファゴット奏者らしさが分かった気がします。周りの力を引き出して支えて抱擁するような印象ですね。ありがとうございました。

 

写真撮影 ― 松井伴実

2012年6月取材 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。現在、東京藝術大学音楽学部楽理科に在学中。