NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

菅原恵子

菅原恵子

ファゴット

すがわら・けいこ

栃木県出身。武蔵野音楽大学卒業。1983年第18回民音室内楽コンクール(現東京国際音楽コンクール)第1位、1985年第34回ミュンヘン国際音楽コンクール木管五重奏部門ファイナリスト、1986年日本管打楽器コンクール・ファゴット部門第3位入賞。山畑馨、岡崎耕治の両氏に師事。新星日本交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を経て、1995年9月1日NHK交響楽団に入団。木管五重奏団「Zephirus Quintet Tokyo(ゼフィルス・クインテット・トウキョウ)」、「TRIO CINQ ANCHES(トリオ・サンクァンシュ)」のメンバーとしても活動している。

 

見るのも嫌だったファゴットの印象が、一夜にして変わりました

岩槻

ファゴットはいつから始められたのですか?

 

菅原

高校1年生からです。小学校5年生の時に始めたトランペットが大好きで、プロになるつもりで地元の音楽高校に入学したのですが、当時のことですから「女性がトランペットでプロになるのは無理だろう」と言われて、高校生からでも間に合うオーボエかファゴットに転向することになったのです。たまたまレッスンにいらしていたファゴットの先生に「ファゴットをやりなさい !」と言われ、その日に早速、楽器を渡されて家に持ち帰りました。まったく腑に落ちない気分でした(笑)。

 

岩槻

突然の出会いはいかがでしたか?

 

菅原

本当に嫌でした(笑)。トランペットと違って、親指だけでも左で11か所、右で4か所も押さえる場所があるんですよ。

 

岩槻

えっ、そんなに?

 

菅原

指遣いを覚えるのが一苦労で、見るのも嫌でした。

 

岩槻

何をきっかけに楽しくなり始めたんですか?

 

菅原

大学1年生の時に、ドイツ留学から戻られた元N響の首席奏者でいらした岡崎耕治さんの帰国リサイタルを聴いて、鳥肌が立つような衝撃を受けました。自分が習っていた楽器はこんなすばらしい音がする楽器だったのかとショックを受けて、その次の日からは早く楽器が吹きたくてたまらなくなってしまいました。一夜にして楽器の印象ががらりと変わりました。

 

岩槻

その岡崎さんに師事されたのですね。

 

菅原

幸運にも2年生のときに、岡崎さんが私の通っていた大学に着任されたのです。私も感激しましたが、岡崎さんの方も帰国して初めての生徒に留学で学んだことをすべて教えようと意気込まれたので、それはそれは厳しい指導でした。

 

岩槻

女性のファゴット奏者として草分けでいらっしゃいます。

 

菅原

日本のプロの現役では最年長かもしれません。

 

岩槻

大きな楽器で息が大変ではないですか?

 

菅原

楽器自体は重たいので持つのに体力を要しますが、オーボエのように息が苦しくなるほどではないし、フルートやクラリネットのほうが辛いですよ。

 

岩槻

コントラファゴットという本当に大きな楽器も吹かれますが。

 

菅原

あれはさすがに息が足りなくなります。ファゴットとは全然別の息の使い方をしなければなりません。テューバを吹くようなイメージで、肺に深く息をたっぷりと吸ってから吹かないと、口先だけの音になってしまいます。

 

岩槻

その方法はどうやって身に付けたのですか?

 

菅原

テューバの人に独自のメソードを教えてもらったり。でもコントラファゴットは果たして定年まで吹けるでしょうか(笑)。

 

岩槻

女性の管楽器奏者で定年を達成された前例はありますか?

 

菅原

オーボエの小島葉子さんがいらっしゃいます。ファゴットよりもずっと息の苦しいオーボエで定年までがんばられたのだから、私もレベルを保っていければと思いますし、それを私が成し遂げることで後に続く女性が増えるかなと思います。

 

岩槻

オーケストラの中でのファゴットの役目を教えてください。

 

菅原

私が担当しているセカンド・ファゴットは低弦楽器と連動することが多く、チェロ、ヴィオラ、コントラバスの動きを他の高音域楽器や管楽器に伝えるのが役目です。ですから私がおたおたするとアンサンブルが不安定になってしまいます。落ち着いていい音程で吹けていないと、高音域の人が座り心地悪く感じるでしょうね。

 

岩槻

聴衆の皆様にもそのへんをぜひ聴いていただきたいですね。

 

菅原

ファゴットの音は聴き取りにくいでしょうし、さらにセカンドの音となると耳に入りにくいでしょうけれど、役割をわかっていただけると嬉しいです。

 

文 ― 猪上杉子/ 写真撮影 ― 松井伴実
「フィルハーモニー」2010年12月号掲載 ※記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

岩槻里子

聞き手

岩槻里子

いわつき・さとこ

NHKアナウンサー。愛知県出身。津田塾大学卒業、上智大学大学院博士前期課程修了。1998年NHK入局。2007年6月~2008年3月までメインキャスターを務めた「お元気ですか日本列島」では気さくな人柄が人気を呼んだ。2008年7月から「COOL JAPAN―発掘!かっこいいニッポン」のナレーションを担当。2008年4月から2011年3月まで「N響アワー」に出演。趣味はヴァイオリン。