NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

宇賀神広宣

宇賀神広宣

ファゴット首席

うがじん・ひろのり

群馬県生まれ。東京音楽大学付属高等学校、東京音楽大学卒業。ファゴットを霧生吉秀、菅原眸に、室内楽を植村泰一、宮本文昭、安原理喜の各氏に師事。日本クラシック音楽コンクール全国大会3位入賞。セントラル愛知交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団を経て、2014年9月1日入団。

 

寄り添いながらも存在感のある演奏家に

華恵

N響で最初に演奏されたときはどのような印象でしたか?

 

宇賀神

2012年ごろ初めてエキストラ奏者として呼んでいただいたときに、衝撃を受けました。響きの豊かさ、音の重厚さに圧倒されて、鮮烈な体験をしました。

 

華恵

それは練習の時からですか?

 

宇賀神

シューマン《交響曲第4番》の練習が始まった瞬間に、周りの方々が出している音に圧倒されたという記憶があります。

 

華恵

その周りの音に自分も合わせていかなければならないのですね。

 

宇賀神

ええ、それはとても大変な作業で、その当時はとても自分がその音を出す一員になれるとは予想できなかったです。

 

華恵

入団されてもうすぐ1年ですが最近はいかがですか?

 

宇賀神

ようやく落ち着いて演奏に取り組めるようになりましたが、日々課題と格闘しています。オーケストラにはそれぞれ固有の音というのがあって、N響の場合は音が重なった時の一体感が独特だと感じています。そこに1人異質なものが入ってしまうと台無しになってしまう。それが嫌なので、いかにそこに自分をフィットさせていくか、その上でいかに自分を表現するかという課題と取り組んでいる最中です。

 

華恵

オーケストラが1つの音になっているかどうかは、どのように聴き分けるのですか?

 

宇賀神

それを言葉で説明するのは難しいですね。数値で表すことができないもので、それぞれのオーケストラが発生する倍音のようなものを感じることでしょうか。

 

華恵

ご自分ではどのように音を作るのですか?

 

宇賀神

練習や本番などの場で感じた、このオーケストラ全体の音になじむであろう音を想像しながら、家で日々追求しています。ファゴットの場合はリードによっても音が左右されるので、リードの調整も大事な作業です。最初は1枚の板状のリードを、自分で削っていくんです。どの部分をどう削るか、逆にどの部分を残すか、削り方をちょっと変えただけで出てくる音が大きく変わってきます。同じ削り方をしたリードでも吹く人が違うと同じ音は出ないので、自分だけの困難な作業です。

 

 

華恵

ファゴットとの出会いはいつですか?

 

宇賀神

群馬県の桐生市出身なんですが、僕が中学校1年生の時に子どものためのオーケストラができたんです。ピアノ教師だった母に連れて行かれ、入ることになりました。楽器の経験などほとんどないのに「何の楽器をやりたいか」と指導者の方から聞かれ、チューニングの印象からなんとなく「オーボエやりたいです」と答えたのですが、「男の子だから大きいファゴットをやりなさい」と強制的にあてがわれたんです。それまでファゴットという楽器のことはまったく知らなかったです。

 

華恵

自主的に始めたわけではなかったのですね。楽器との相性はいかがでした?

 

宇賀神

始めた当初は、あまり乗り気じゃなかったですね。ファゴットは伴奏が多いですし、ましてや子どものアンサンブルが演奏する曲のファゴット・パートは正直言って面白くなかったので、練習もして行かないような状態でした。でもある時、そのジュニア・オーケストラでヨーロッパに旅行する機会があり、ウィーンに観光で寄り、ムジークフェラインでの演奏会を聴くことができたんです。オーケストラはウィーン・フィルではなかったですし、曲目も覚えていないのですが、会場の豪華な雰囲気と素晴らしい響きにすっかり魅了されてしまいました。2階奥のステージが見えにくい席でしたが、ファゴット奏者をのぞきこんで見ました。それ以来、ファゴットがすごく好きになった。フルートなどの楽器に較べれば音の数も活躍の場面も少ない楽器ですが、ファゴットのキャラクターみたいなものが面白くなってきたんです。

 

華恵

一気にご自身の意志で楽器に向き合うようになったんですね?

 

宇賀神

自分から音楽高校に行きたいと親に頼んで、高校から東京の音大付属高校に行かせてもらいました。

 

華恵

高校から大学と進んでいく中で、音楽の演奏を仕事にしようと考えたのはどのタイミングでしたか?

 

宇賀神

実は中学生のムジークフェラインでの演奏を聴いたその時でした。その感動体験だけで。単純ですよね。

 

華恵

オーケストラで演奏したいと思われたのですか?

 

宇賀神

そうですね。オーケストラの一員として音楽を作っていきたいと思いました。ファゴットは、基本的に和声を作っていく楽器ですので周りの人との調和を大事にして、みんなで音楽を演奏することに喜びを感じましたから。

 

華恵

今後はどんな音作りをしたいとお考えですか?

 

宇賀神

楽器のキャラクターもそうですが、僕自身の性格的にも、人の前面に立っていくのが得意ではないタイプなんです。でもファゴットの良いところは、他の楽器と調和をしやすい楽器だという点。例えばフルートだけが吹いているのに較べ、ファゴットがそこに重なっていくと、より響きを豊かにできますし、違った色合いを出すことができるようになります。フルートとファゴットの組み合わせじゃなくて、何か別の楽器がそこで鳴っているかのような響きを生み出すことができる。そういうふうに、人に寄り添いながらも存在感のある演奏家になりたいと思っています。

 

写真撮影 ― 藤本史昭  撮影協力 ― サントリーホール

2015年4月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。