NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

菊本和昭

菊本和昭

トランペット首席

きくもと・かずあき

兵庫県出身。京都市立芸術大学および同大学院を首席で卒業・修了。フライブルク音楽大学、カールスルーエ音楽大学で学ぶ。京都市交響楽団を経て、2012年3月入団、トランペット首席奏者を務める。日本管打楽器コンクール第1位、日本音楽コンクール第1位、済州ブラス・コンペティション第2位、リエクサ国際コンクール第3位、エルスワース・スミス国際ソロ・コンペティション第2位など数多く受賞。これまでにトランペットを早坂宏明、有馬純昭、アンソニー・プログ、ラインホルト・フリードリヒ、エドワード.H.タール博士、室内楽を呉信一の各氏に師事。洗足学園音楽大学准教授、東京藝術大学非常勤講師。

 

一生かけて完璧なものを求めたい

華恵

入団されて3年が経ちましたが、もうすっかり慣れましたか?

 

菊本

入団のちょっと前に生まれた娘が3歳ですからね。ようやく生活も落ち着いてきました。以前のオーケストラとはポジションがまったく変わりましたから、入団当初は大変でした。またN響は演奏会の前半と後半でメンバーの入れ替えがないので、1人で吹き通すということに対しても準備ができるようになってきました。毎回の演奏曲には相変わらず格闘していますが、その点でも充実した毎日です。

 

華恵

3歳のお嬢さんとの生活も充実しているのでは?

 

菊本

時間があるときは寝る前に、今日の出来事を振り返っています。2歳になった頃、プラスチックのトランペットを渡したら、最初は音が出なかったものの、ちょっとコツを教えたら音を出せるようになりました。マウスピースの中に唇が収まっていれば音は鳴るものなので、子どもの小さな唇だとすんなり音が出やすい。筋肉の細胞が柔らかいし、コツをつかむのも早い。だから子どもにトランペットを与えるのを義務化すれば、日本はトランペット大国になるかもしれませんね(笑)。

 

華恵

お父さんを継ぐかもしれませんね。

 

菊本

いや、娘を演奏家にはさせたくないですね。僕は演奏会のたびに失神しそうになっているんですから。万一どうしてもやりたいと言ったら止めませんけど。

 

華恵

トランペットの演奏家人生というのは大変なものですか?

 

菊本

どんな楽器かにかかわらず、大変じゃない人なんているんでしょうか。一生かかっても自分が満足のいく演奏はできないのではと思うんです。だからこそ続けていられる。完璧を求めるという努力を忘れた時点で演奏家は終わりだと思って取り組んでいます。

 

華恵

それはどの時点から芽生えた意識ですか?

 

菊本

中学生の時に吹奏楽部でトランペットを始めましたが、当初から自分の音というものに対して疑問はありました。部活の先生の好みだったダークサウンドを追究してやってきて、アメリカでコンクールを受け、感触がよかったのに結局 2位に終わってしまった。ショックを受け、審査員に後で理由を聞いたら、「音が暗すぎる」と言われたんです。

 

華恵

教わった音に支配されてしまいますよね。そこから自分の音探しを?

 

菊本

国によってトランペットの音色には傾向があるんですけど、アメリカでは明るい華やかなサウンドを求めるので、自分にはない音をどうやったら出せるようになるのだろうかと、楽器やマウスピースを変えてみたりと試みましたが、どうしても自分の音しか出ない。そこで、それまでは苦手だった明るい音色のトランペットの人達の演奏を聴いて自分に入力する作業を始めました。最初に作り上げられた自分の音を変えるのは苦労するので、初期に受ける教育はとても重要だと身をもって感じました。

 

 

華恵

音を聴いて入力するとご自身の音が変わっていくんですか?

 

菊本

不思議なもので変わるんです。華恵さんは何か国語を話しますか?

 

華恵

2.5か国語です。0.5がフランス語で、あとは英語と日本語です。

 

菊本

そんなふうに言語を使い分けるようなものだと思います。僕は、関西弁とちょっとの標準語と、ほんのちょっと英語とドイツ語なんですね。これらをしゃべり分ける時には頭の中で何かが働いているじゃないですか?

 

華恵

チャンネルの切り替えでしょうか?

 

菊本

そうなんです。輝かしい音のチャンネルもできて、場面によって使い分けができるようになった。そうすると、アメリカで評価されなかった暗い音色、柔らかい音色というものが自分の強味だと分かってきました。

 

華恵

ではN響のトランペット・セクションの音はどんな音ですか?

 

菊本

入団した当初の印象は、それぞれが自我のある音を持っている人達で、それがオーケストラではまとまって聞こえてくるのがすごいことだと驚きました。他人に合わせるのではなくてそれぞれが自分のやりたいことを表現することによって融合することを発見しました。2番トランペットは1番に絶対に合わせるようにと教育を受けましたが、それだけでは自分を殺すことになる。そうではなくて自分を生かすために自分を表現して、それが融合する。そんな魅力のあるセクションです。

 

華恵

これからはどんな音が求められるのでしょうか?

 

菊本

これから先求められていくものは時代によって変化していくと思います。僕はN響のトランペット・セクションの最大の特徴は、ダイナミックで迫力のある音を出せる一方で、繊細なこともできるという、両局面を見せられることだと思っています。その特徴を生かしながら、もっとオーケストラにフィットできるようなセクションになっていけたらいいなと思います。僕自身がそうですが、どうしても自分のことばかり考えがち。音をはずさないかどうか、セクションできっちり合わせたい、と。そうではなくて、オーケストラという1つの大きな社会がうまく機能するために、どう自分がフィットしていくのかを考えたいですね。もちろん自らイニシアティブを取らないといけない時もありますが。柔軟で視野の広いプレイヤーの集まりになりたいと思っています。

 

写真撮影 ― 藤本史昭  撮影協力 ― サントリーホール

2015年2月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。