NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

和久井仁

和久井仁

オーボエ

わくい・ひとし

愛知県出身。東京藝術大学卒業。これまでにオーボエを似鳥健彦、小島葉子、小畑善昭、また室内楽をアンリエット・ピュイ・ロジェ、中川良平、山本正治の各氏に師事。東京佼成ウインドオーケストラに入団し首席奏者とアシスタント・コンサートマスターを務めた。愛知県立芸術大学音楽学部専任講師を経て、2004年4月1日入団。現在、愛知県立芸術大学、東京藝術大学、桐朋オーケストラ・アカデミーの非常勤講師。トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズのメンバーも兼任。また、アマチュアオーケストラを中心に指揮活動も行っている。

 

勉強にはゴールはありません

華恵

オーボエとはどのように出会われたのですか?

 

和久井

中学の吹奏楽部です。中1の入部のときの希望楽器欄に、ホルンと書くつもりが間違えてオーボエと書いてしまったんです。カッコよさそうだからホルンをやりたかったのに、楽器の名前もろくに知らなかったので。でも最初はクラリネットを与えられて、中2になってから「最初の希望がオーボエだったんだから、オーボエに変わったら?」と先輩から言い渡されました。中高一貫校だったので、中学2年生の私には高校生の先輩に対して何も言い返せず、「はい、分かりました」と二つ返事で引き受け、オーボエになりました。

 

華恵

そもそも吹奏楽部に入るきっかけはなんでしたか?

 

和久井

じつは野球が好きだったんです。小学校の頃は野球部で、高校野球に憧れていました。野球をやるのも応援をやるのも、僕にとってはどっちも高校野球そのものだったので、その応援をしたいという一心からの入部でした。きっかけはすごく単純。そこから音楽にだんだんのめり込んでいきました。

 

華恵

その後、東京藝大に入学されオーボエを本格的に学ばれましたが、音楽大学で教える立場を経てからN響のオーディションを受けられたのはどんなお気持ちからですか?

 

和久井

大学の常勤講師になると演奏の機会が一気に減ってしまい、まだ30歳の時でしたからもっと演奏をしたい、演奏の機会がほしいという気持ちが湧いてきたことが大きな動機です。当時教えていた学生たちにも演奏に真剣に取り組む姿を身をもって示してみせたい、という教育的な意向もありましたね。

 

華恵

最近は指揮もなさるのですね。

 

和久井

アマチュアの人達にとって、プロで活躍する素晴らしい指揮者の指揮で演奏できることはまれで、演奏会やCDで聴いて接することしかできません。そこで、N響という恵まれた場所で素晴らしい指揮者から自分が受けた影響を、多くの人や学生たちに還元してあげたいな、という思いから、指揮や指導をしています。

 

華恵

指揮の体験は、今度はご自身のオーボエの演奏やN響での演奏にも還元されるのでしょうか?

 

和久井

指揮をするにあたっては、スコアのすべてのパートを見るので、オーボエ・パートの立ち位置や役割もよくわかるようになります。指揮をしたことのある曲は相当勉強して臨むことになり、すべてのパートの役割を理解しながら演奏するので、自分の演奏がはっきりしたものになると思います。けれども危険な点もあって、他の人のパートをつい吹いてしまいそうになる。自分の中で全部のパートが鳴ってしまうんですよ。

 

 

華恵

学生の指導もあり、お忙しいでしょうが、生活の一番大きい部分を占めているものは何ですか?

 

和久井

根幹はN響です。オーボエ奏者はリードも自分で作るので、それを含めて何もかもが勉強の連続です。オーケストラ・プレイヤーとしてはどれだけ曲を深く知っているかということが大事になってくるので、何しろ勉強が大事です。

 

華恵

N響メンバーとの室内楽はいかがですか?

 

和久井

とにかく、合わせやすい。一人一人の技術が高いこともありますが、同じ指揮者を同時に体験していることによって、音楽の方向性がみんな似てくるのでしょう。さらにN響の伝統の音というものをみんながだんだん吸収して、N響の団員らしくなっていくんじゃないでしょうか。そのためか、N響メンバーによる木管五重奏では、その度に顔ぶれは変わっても、ほぼ同じ演奏になります。これはすごいことですよね。

 

華恵

和久井さんの感じるN響の伝統というのは?

 

和久井

N響はこういう演奏だという固定的なものではなくて、時を経てどんどん変わってきていると思うんです。昔のN響と今のN響は全然違う音です。みんなが同じ流れで束になって徐々に変わっていく、この1つの流れが伝統というものなのかと思います。この間テレビでN響の古い演奏が流れていたときに、音だけ聴いていて「北島章さん(元首席オーボエ奏者)の演奏だ」と思っていたら、茂木(大輔)さん(現首席オーボエ奏者)だったんですよ。その映像を観て20何年前の茂木さんは、どんどん進化して現在の音色に至ったように感じました。オーケストラ全体がどんどん変わっていくことにみんなが順応して、一人一人がフレキシブルにいろいろなことができるようになっていっているんですね。このみんなの流動的な音がN響の伝統だと思います。

 

華恵

そのN響の中で、今後の抱負というものはありますか。

 

和久井

常に上達することですね、あきらめずに。リードの作り方も含めて、とにかく勉強し続けること。楽器を置くときまではゴールはありませんから、そこまではずっと勉強し続けていきたいですね。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2014年10月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。