NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

渡邊方子

渡邊方子

チェロ

わたなべ・まさこ

桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コース終了。明治安田生命およびロームミュージックファンデーションより奨学金を受けて2001年より渡米。米国イェール大学音楽院、インディアナ大学に留学しアーティストディプロマを取得。第3回札幌ジュニア・チェロ・コンクール優秀賞。霧島国際音楽祭にて特別奨励賞受賞。第66回日本音楽コンクール第2位。これまでに井上頼豊、上村昇、アルド・パリゾ、ヤーノシュ・シュタルケルの各氏に師事。2010年3月1日入団。

 

チェロ弾きとして成長をつづけたい

華恵

N響に入団されて5年近く経ちました。変わってきたことはありますか?

 

渡邊

相変わらず新しい曲の譜読みに追われていますが、産休から戻って間もないので、より一層時間の使い方を工夫しなくてはならなくて。なるべく早めに先の曲を読んでおくとか、電車に乗っている空いた時間でも音楽を聴けるようにするなど、少しずつでも身体に入れようと心掛けています。でもその半面、すべて忘れて気分転換する時間は必ず作るようにしています。

 

華恵

没頭できる趣味は何ですか?

 

渡邊

オーブン料理が好きですね。夜中に急に思いついてパウンドケーキやプリンなどお菓子を焼いたりします。焼けるにおいがしている間に何かをするひとときに、幸せを感じるんです。譜読みで煮詰まった時などの気分転換になりますね。若いときに一時期、今後もチェロを弾いていけるだろうかと悩んだ時にも、料理で救われたことがありました。

 

華恵

それはどんな悩みだったのですか?

 

渡邊

思春期の頃に他のことで悩みを抱えると、音楽で自分を表現することができなくなることがありました。5歳というわりと早めの時期にチェロを始めた分、コンクールに出るのを当たり前のように過ごしていた時期があって、チェロが好きだという気持ちを忘れがちになって苦しんだこともあります。料理をしたり違う音楽を聴いたりして気分転換をして戻ってくることで、また新しい気持ちで楽器と向き合えたんです。その頃を思うと、今こうやってオーケストラで弾けていることが本当に幸せだなと思います。

 

 

華恵

アメリカに留学されていたのですよね?

 

渡邊

アメリカのイェール大学とインディアナ大学に計5年間行ってきました。ヨーロッパに行きたくて準備を始めていたのですが、イェール大学のアルド・パリゾ先生と出会い、アメリカに行こうと決めました。大きな決断でしたね。

 

華恵

アメリカでの一番大きな体験は何でしたか?

 

渡邊

私が留学していた頃は、特にチェロでは日本人が全然いなくて……。それはそれで新鮮で、学ぶものはたくさんありましたね。一番大きかったのは表現の仕方、人と人とのコミュニケーションの取り方。はじめは自己を主張するやり方に戸惑いもありましたが、少しずつ言葉が分かって友達ができると、人とつながる楽しみや人を大事にするという目標は共通だと分かりました。音楽はやはり人とのつながりがとても大事なことだと実感できました。逆に日本の良さを発見することもできましたし。

 

華恵

その、日本の良さというのはどんなところですか?

 

渡邊

相手に全部を言わせなくても空気で読み取る、相手の気持ちを気遣って先に行動するところ。音楽をする時も相手がどうしたいのかを読むところですね。アメリカでストレートに自分の意見を言うのも大事だと学んだのですが、日本的な言わずとも相手の心を察するという気遣いも大事なものだと再確認しました。

 

華恵

それはチェロという楽器の役割にも通じていそうですね。

 

渡邊

チェロ奏者は音楽に対してはものすごく熱いんですけど、表現の仕方やお互いのコンタクトの取り方はとても穏やかなんです。オーケストラの中でも、メロディを弾くこともありますが、間に入って取り持つ役割があるので、行間を読むことを大事に思っていらっしゃる方が多いような気がします。

 

華恵

今後の抱負はありますか?

 

渡邊

N響でやりたいことが、死ぬまでに絶対できないんじゃないかと思うぐらいあるんです。先輩達がやってきたものをまず盗みたいと思っています。その上で自分のカラーというものもN響の中でもいずれはもっと出せるようにしたいと。おばあちゃんになるまで常に成長して、変化を恐がらないで、自分の目指すところに果敢に挑んでいければと思っています。

 

華恵

ちなみに、今の渡邊さんのカラーはどんな色ですか?

 

渡邊

いえ、まだまだとても自分のカラーは作り出せずにいますが、でも常に音色が魅力的でありたいなとは思っています。音色にはこだわりを持って追究しているつもりなんです。それをオーケストラの中で生かしていきたいですね。オーケストラの中でのチェロ弾きというものを究(きわ)めてみたい。瞬間瞬間に生まれる音楽に対して、その場で何が必要かを素早く察知、判断して対応するという高い技術は、経験がいるものです。それができる人に、「頼れる人」に、早くなりたいと思っています。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2014年9月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。