NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

伊藤 圭

伊藤 圭

クラリネット首席

いとう・けい

宮城県出身。2001年東京藝術大学卒業。2002年JILA音楽コンクール室内楽部門第1位。2004年第6回日本クラリネットコンクール第1位。これまでにクラリネットを千石進、日比野裕幸、野田祐介、山本正治、三界秀実、村井祐児の各氏に、室内楽を岡崎耕治、四戸世紀の各氏に師事。藝大フィルハーモニア、東京都交響楽団を経て、2011年5月1日入団。首席クラリネット奏者。国立音楽大学、 愛知県立芸術大学、東京藝術大学講師として後進の指導にもあたっている。

 

自分を磨いていきたいです

華恵

N響に入団されて4年間の中での変化はありますか?

 

伊藤

あっという間でした。N響は憧れて入ったオーケストラでしたから、それだけに初めのうちは緊張感が強くあったんですが、今は周りの先輩方に支えていただけて楽しく過ごせています。

 

華恵

首席で入団するというのはどのようなことでしたか?

 

伊藤

責任の重い役割ということもあり、息が詰まる思いでやってきたのですが、一方で自分の考えをストレートに伝えることが役割でもあるこの立場を案外楽しめています。

 

華恵

最初の楽器は何ですか?

 

伊藤

ピアノをやっていました。なかなか上達せずに苦労しましたが、続けてきたことは今でもよかったと思っています。小学校のリコーダーも好きだったし、フルートやオカリナなどいろいろな笛をずっと吹いていた記憶があります。吹く楽器が好きだったのでしょうね。

 

華恵

中学生でクラリネットを始めたのはどこにひかれたのですか。

 

伊藤

音色が好きです。音が重なった時のハーモニー、その重厚な響きに魅力を感じました。アンサンブルの曲もたくさんあり、音色のバリエーションも多く、楽しそうだと思ったのがきっかけです。

 

華恵

トロンボーンからクラリネットに替わられたそうですが、違和感はありましたか?

 

伊藤

楽器の奏法が全然違いますので替わった当初は大変でした。クラリネットは吹き込むマウスピースがとても狭く、息が余ってしまうので。

 

華恵

クラリネットを手にしてすぐにご自身に合うと感じられました?

 

伊藤

一瞬で合うと感じました。音色が自分の声や性格にどこか似ている。その音色に魅了され、夢中になって練習しましたね。

 

華恵

クラリネットを職業にしようと思われたきっかけは?

 

伊藤

自分には音楽しかないと中学生の時も高校生の時も思っていました。他のことは考えられなかったんです。N響の演奏をテレビで聴いたり、モーツァルトやブラームスの《クラリネット五重奏曲》をCDで聴いていくうちに、もしこんなことが仕事としてできたら幸せだなというふうに。

 

華恵

音楽をよく聴く家庭環境でいらしたのですか?

 

伊藤

いやクラシックは家では流れていませんでした。実家は宮城県の農家でしたから音楽の専門家とは縁もない環境でした。でも歌は好きでみんな上手に歌いますよ。楽器はよく家の裏の田んぼで吹きました。 いくら音を出しても親にもおばあちゃんにも文句も言われなかったので、思いきり吹けました。

 

 

華恵

クラリネットのリードは扱いが難しいそうですね。

 

伊藤

クラリネットはリードを自分で作るわけではなく完成品を買うのですが、材質の特性なのか湿度によってゆがんだり、膨らんだりするんですね。季節によって違うんです。状態が毎日違うので、具合がいいなと思っても次の日にまた違う状態になってしまうので、毎日面倒を見ていかなきゃいけないんですよ。湿度を保って吹き鳴らして、状態が落ち着くまで時間をかけて整えなくてはならないんです。

 

華恵

吹き鳴らすことで湿度を保つんですか?

 

伊藤

吹き鳴らしたり、保湿をしたり除湿をしたり、手がかかります。

 

華恵

リードのメンテナンスについてはN響の同じ楽器の方と情報交換をされるんでしょうか。

 

伊藤

いろいろなやり方の人がいます。1年、2年と吹き続けて使う人や、長い間寝かせておく人や、時間のかけ方は人それぞれです。加藤明久さんはじっくり慣らし作業を繰り返してから使うそうです。僕は1か月くらいがちょうどいいです。

 

華恵

時間のかけ方で音が違うんですか?

 

伊藤

音も全然違うんですが吹き心地も違います。

 

華恵

N響に入られてからの演奏面での変化はありますか。

 

伊藤

僕にとって神様みたいな存在のブロムシュテットさんのような方と、一緒に音楽作りをするだけで学ぶことはたくさんあって、音楽的にも自分はN響で育てられているなと思います。

 

華恵

N響に入られて一番苦労したことは何ですか?

 

伊藤

テレビ放送のための撮影があるので緊張することです。ただ、僕自身、小さい時にN響の番組で当時の横川晴児さんと磯部周平さんの姿勢や口の形を見て、真似て演奏していましたからね。そういうふうに自分を見ている人がいると思うと責任重大だなと思います。

 

華恵

これからの抱負はありますか?

 

伊藤

間もなくパーヴォ・ヤルヴィさんが首席指揮者に就任されます。出会いが楽しみですが、さまざまな指揮者に指摘されてもどうしても思っている通りの音に自分が近づけない時があるんです。自分ではこういう音を出したいと感じながら、まだ自分の中にはそういう引き出しがないというジレンマです。到達点などなく、いつまでも探って求めていくものなんでしょうけど。頑張って自分を磨いて成長できればと思います。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2014年10月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。