NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

市 寛也

市 寛也

チェロ

いち・ひろや

福岡県出身。東京藝術大学音楽学部を経て同大学院修士課程修了。同声会賞受賞、新人演奏会に出演。2014年、ソリストとして活動する辻本玲、読響の高木慶太、都響の森山涼介とともにチェロアンサンブル「Quartet Explloce」を結成。これまでにチェロを秋津智承・苅田雅治・河野文昭、室内楽を山崎伸子・松原勝也・岡山潔・故ゴールドベルク山根美代子の各氏に師事。2012年1月1日入団。チェロ奏者。

 

土台を支えるバランス感覚が大事です

華恵

お父様がチェロ奏者でいらしたんですね?チェロに触れるきっかけはお父様ですか?

 

ほとんど記憶にないんですが、父が小さい楽器を持って帰ってきて与えられました。

 

華恵

では手ほどきもお父様から?

 

小さいころは父のレッスンが厳しくて怖くてたまらなかったです。半ば受動的にやってきた楽器だったんですが、結局チェロで大学に入ってから、自発的な気持ちが出てきました。めちゃくちゃ上手い同級生と友人になり、彼から刺激を受けたことが非常に大きいです。

 

華恵

お父様がそれだけ厳しかったというのは、市さんのどんな部分に最も期待をかけていたのでしょうか。

 

どうでしょうね。そういう話はまだ父から聞いたことはないですが。

 

華恵

お父様とオーケストラでいっしょに演奏されたことも?

 

大学入学後に、九州交響楽団にエキストラで演奏に行ったとき、親子で並ばせられたりもしました。まわりは面白がっていましたが、なかなかやりづらかったです。 父と弾き方がそっくりだとよく言われてしまうのは気恥ずかしいですし。

 

華恵

どういうところが似ていると?

 

楽器の構えとか弾くときの肘(ひじ)の角度が似ていると言われますね。骨格が似ているからかもしれないですけれど。

 

華恵

本気でチェロに取り組み始めた大学時代の経験では何が一番役立ってますか?

 

カルテットの経験ですね。いいメンバーに出会えて、長い間同じメンバーで勉強していました。その室内楽で勉強したことはオーケストラやソロにも応用できることがたくさんあって、それが今も息づいていると思います。

 

華恵

例えばどんなことですか?

 

弦楽四重奏でのチェロの役割は、一番下を支える、中核なんです。メロディを弾くことは少ないですが、オーケストラでいうとコントラバスなどの役割になる、ピラミッドの一番下の土台の部分です。音域の高い楽器がメロディを弾いて乗るために、不安定にならないようにバランスをどう取るかが肝心の役割ですが、このバランス感覚を養うことはなかなか難しい。メロディがこういう風に弾くなら、このくらいの音の太さや音色で弾くとバランスが取れるという感覚を身につけるのにカルテットはいい経験でした。

 

 

華恵

N響に入られてからは、技術面での変化はありましたか?

 

入団して衝撃を受けたのは、チェロ・セクション全員が徹底して弾き方の技法を揃えるという伝統。弓を使う量、弓を動かす速さ、弾く弦のポイント、ヴィブラートの速さなど、細かいところまでを徹底して同一の奏法に統一しているんです。これまでの奏法の流派は皆それぞれなのに、10人全員が同一の奏法で弾くというのは驚きでした。違う弾き方をしているとまとまった1つの音にならないので、先輩方がずっと伝えてきて今の音をつくりあげたのでしょう。

 

華恵

今、心がけていることは何でしょうか?

 

1回1回の演奏会を大事にして、巨匠と称される指揮者の方と共演できる機会にはできるだけ多くのことを吸収したいです。また、本番で緊張すると腕の筋肉が固くなって、思うように身体が動かなくなるという経験をしたので、それをコントロールする方法を苦労して探しだしました。本番前の練習中に本番をイメージして身体の状態を意識するようにして解決を図っています。

 

華恵

チェロ奏者同士からのアドバイスはありますか?

 

もちろん、先輩方がその都度、例えば譜読みの要領のいいやり方だとか、この曲はこう弾くという決まりみたいなものや、あるいは息抜きや気分の切り替え方など、いろいろとアドバイスくださいます。

 

華恵

どんな息抜きの方法ですか?

 

チェロ・セクションの方は多趣味の方が多く、忙しくても自分の時間を作ってやりたいことをやるのも大切なことだと言われます。チェロという楽器の特徴なのかどうか、アクティブで、人といっしょに行動したがる傾向がありますね。自然を積極的に楽しむ人や、また一方、車や機械いじりが好きな人も多いですね。僕自身もやはり機械が好きなので電化製品をチェックするために電器屋にぶらぶら行ったりします。

 

華恵

チェロの楽器の魅力を教えてください。

 

渋い、落ち着いた音色。音域はかなり広く、高い音も出ますから、チェロだけのアンサンブルが楽しめるところ。そんな魅力をもっと伝えていきたいですね。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2014年9月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。