NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

向山佳絵子

向山佳絵子

チェロ首席

むこうやま・かえこ

東京都生まれ。1985年、第54回日本音楽コンクール第1位入賞。東京藝術大学を経て1990年、ドイツ・リューベック国立音楽大学に留学し、ダヴィート・ゲリンガスに師事。同年、第10回ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール第1位入賞。1988年、第3回アリオン賞審査委員奨励賞受賞。1992年、第2回出光音楽賞受賞。2013年7月1日入団。これまでに松波恵子、堀江泰氏、レーヌ・フラショー、毛利伯郎の各氏に師事。現在、東京藝術大学非常勤講師として後進の指導を務める。

 

悔いなく、多くを伝えていきたいですね

華恵

ソリストとして広くご活躍されていらした向山さんが昨年N響に入団されて驚きました。

 

向山

まさかこの年齢になってオーケストラで弾くことになるとは予想していませんでしたから、自分自身が一番驚いています。ただ、子どもの頃にオーケストラで弾きたいかと聞かれて「入るんだったらN響がいい」と答えたことを思い出しました。いつもテレビで見ているあのオーケストラに入りたい、と言ったらしいです。子どもの頃の夢が叶ったということなんですよね。

 

華恵

生活は変わりましたか?

 

向山

音楽に関わる時間が必要になりました。今までの人生の中でこんなに長い時間チェロを弾くことはなかったくらいです。リハーサル日と本番初日は4時間ほど弾くことになるので。オーケストラ曲は初めて取り組む曲も多く、勉強、勉強、の日々です。

 

華恵

子どもの頃に入りたいと思ったN響とは何か違いはありましたか?

 

向山

私がよく知っていたN響というのは、もっと怖い先輩方がいっぱいいらした時代のことなんです。それが入ってみたら、年下の人ばかり。これには驚きました。かつてはピリピリした空気でしたが、今は雰囲気もだいぶやわらかくなりましたよね。

 

華恵

ご自身の演奏の技術や音色は変えたりされるのですか?

 

向山

それはないですね。必要な技術や音色を使うのはオーケストラでもそれ以外でもいっしょだと思います。

 

華恵

いつごろ確立されたのですか?

 

向山

藝大に入った年に、岩崎洸さんが沖縄で行っていた室内楽のキャンプに参加したことがひとつの転機になりました。そしてもうひとつは、ドイツのリューベックに留学してダヴィート・ゲリンガスさんに教えていただいたこと。このお2人の音との出会いには大きな影響を受けました。

 

華恵

どんな音でしたか?

 

向山

言葉で言い表すのは難しいですね。自分の求める音を間近に感じて、どうしたらその理想の音が作れるのか、音色の追求をするようになりました。たくさんの素晴らしい音楽家と、素敵なクラスにカルチャーショックを受けて、自分の音作りや音楽作りの上で大きな転機になったと思います。

 

 

華恵

ご家庭にはチェロの音があふれていそうですね?

 

向山

下の息子がチェロを弾くようになりました。主人(チェロ首席の藤森亮一氏)も私もチェロ奏者という環境にもかかわらず、中学生になってからという遅いスタートでした。始めたころは主人か私が付いてみてやりましたが、去年からは私が最初に習った先生にお預けしています。

 

華恵

N響のチェロ・セクションを率いるお立場ですね。

 

向山

責任を感じていますね。でも私は悔いの残らない楽しい人生を送りたいといつも思っているので、やり残したことはない、と思えるようにしたいですね。幸いにもチェロのセクションの人達は以前からよく知っていましたから、楽しく弾かせていただいています。

 

華恵

何を伝えていきたいと思われますか?

 

向山

個人個人がいろいろな音色の引き出しを持って、全員が自発的にそれを表現していくようになればと思っています。ひとりひとりの音色の引き出しが多ければ多いほど、チェロ・セクションとして多彩な表現ができて、オーケストラ全体として立体的になります。

 

華恵

ソリストや室内楽のご経験が役立っていますか?

 

向山

チェロのセクションにメロディが出てきた時に、「こういう音色で弾きたい」と即座に判断して、その音色を出すための技術がすぐにわかるということは、これまでの経験が役立っているのではないかと思いますね。

 

華恵

それはみなさんには説明されるのですか?

 

向山

口で説明するのではなく、私が一生懸命に表現することによって、セクションのみなさんがまず気づき、理解し、そして納得してくれるといいなと思いながら弾いています。私に足りないものももちろんありますし、一方で、私からみなさんに伝えたいこともたくさんあるので、お互いに補完しあうことで相乗効果を生んで、いい演奏になればいいなと思っています。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2014年5月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。