NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

楽員インタビュー

横溝耕一

横溝耕一

ヴァイオリン

よこみぞ・こういち

東京都生まれ。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を経て、桐朋学園大学卒業。宮崎国際音楽祭、サイトウ・キネン・フェスティバル松本等に参加。これまでにヴァイオリンを小川有紀子、小森谷巧、堀正文、徳永二男に、室内楽を徳永二男、毛利伯郎、原田幸一郎等各氏、ライプツィヒ弦楽四重奏団、東京クヮルテットに師事。2010年7月1日入団。ヴァイオリン奏者。ウェールズ弦楽四重奏団ではヴィオラ奏者として活躍する。

 

心の底から震える瞬間を求めて

華恵

N響ではヴァイオリンですが、弦楽四重奏の活動もされていて、そこではヴィオラを弾いていらっしゃる。ヴィオラと出会われたのはいつですか?

 

横溝

ヴァイオリンはずっと弾いてきたわけですが、進学した桐朋学園の高校ではヴァイオリン科の生徒でも授業でヴィオラを弾きました。高校のオーケストラでも持ち回りでヴィオラの順番が回ってきます。ヴィオラはヴァイオリンとは違うハ音記号の楽譜ですから、それがパッと読めるかどうかが問題なんですが、僕はすぐ読めて、何の苦もなく楽器も構えられて音も出せた。それで室内楽でヴィオラで誘われることが多かったんです。気の合う仲間とアンサンブルをするのに絶対にヴァイオリンじゃなきゃいやだとは思わなかったので、ヴィオラを弾くようになりました。

 

華恵

でもヴィオラへの転向は考えなかったのですか?

 

横溝

2つの楽器を行き来することが僕にはちょうどいいみたいです。楽器の個性が違い、それぞれが表現できるものもちょっと違う。僕にとってはヴァイオリンは、サッカーで言うとフォワード選手のような感じなんです。注目を浴びて活躍して見せ場をつくるような。でも本来の僕の性格はそうじゃない、どちらかと言うと引っ込み思案。一方でフォワードで輝いている人を見ると羨(うらや)ましくも思う。ああいうふうになりたい、スポットライトを浴びてみたいと。その憧れの思いを実現してくれるのがヴァイオリンで、本来の僕の性格を表現できるのがヴィオラですね。

 

華恵

ヴィオラを弾く方が自然なんでしょうか。

 

横溝

周りをよく見てバランスを考えながら弾くヴィオラの方が自分を表現しやすい部分は確かにあります。

 

華恵

その上でヴァイオリンをずっと続けている理由はなんですか?

 

横溝

もしヴァイオリンを極めてしまったとしたらやめてしまうかもしれない。スポーツでも何でも簡単にすぐこなせるものはつまらない。理想のイメージはあるのにそれに自分の実力が追いついていかないものの方にやりがいを感じます。まさにヴァイオリンはそういう挑戦なんです。ヴィオリストの僕とヴァイオリニストの僕は多少違う自分が出せているかもしれないですね。楽器が持つ性格がそうさせるのではないかと思います。それでバランスが取れている部分があるかもしれない。時々ヴィオラを弾くことで自然な自分を保てているのかもしれません。

 

華恵

ではヴァイオリンを職業にしていくと決心したきっかけは?

 

横溝

10歳の時に、亡くなった山本直純さんが教えていたジュニア・フィルハーモニック・オーケストラに入り、そこで違う楽器の人達と音を重ねることの楽しみを知りました。仲間とのアンサンブルの楽しみを早い時期に味わって、それ以来、オーケストラプレイヤーとしてヴァイオリンを弾くことが夢になりました。

 

華恵

そして念願のN響に入って今何年目ですか?

 

横溝

試用期間も含めると5年目ですね。あっという間でした。

 

 

華恵

オーケストラプレイヤーとしての本分はどんなところにあるんですか?

 

横溝

ときに心の底から震えるような瞬間があることですね。地面が揺れているみたいに感じるほどの。オーケストラ全体のエネルギーが1か所に集まって起きる何か不思議な現象です。震災直後のズービン・メータさん指揮での《第9》ではそれを感じました。入団前のことですが、客席で聴いたサヴァリッシュさんとN響の最後の演奏会のベートーヴェン《第7番》は、並んで聴いていた猶井悠樹くん(現N響ヴァイオリン奏者)と感動で胸がいっぱいになりました。このオーケストラ全員の気持ちが1つになった瞬間の爆発的なエネルギーを一度でも体感してしまうと、もう一度味わいたいと求めてしまうんです。そうした共有体験があると、オーケストラの中の人間と人間との信頼関係も深化するのだと思います。信頼を寄せ合う人間同士で音楽を演奏していくのが醍醐味ですね。

 

華恵

今後はどんな演奏家になりたいですか?

 

横溝

パーヴォ・ヤルヴィさんが来年首席指揮者に就任したら、彼とともにN響の新しい伝統を作って後世に残していかなければならないのが、僕達の世代の役目だと思います。同時にサヴァリッシュさん、シュタインさんといった偉大な指揮者達が残した重厚なドイツのサウンドを僕らはさらに引き継いでいかなければならない。デュトワさんが持ち込んでくださったフランス音楽の調べも伝えていかなければならない。N響の若手世代としてはそういうことを考えています。ひとりの演奏家としては、まずは表現者であることを忘れないようにしたいと常々思っています。短いスパンで様々な新しい曲に取り組む毎日を続けていると、楽譜を読むだけで精一杯になりがちですが、そうではなくて自発的にその作曲家が書いたことを自分の中で考えて、自分なりの答えを探していきたいと思っています。

 

写真撮影 ― 藤本史昭

2014年1月取材 ※記事の内容およびプロフィールは取材当時のものです。

 

N響ライブラリー

華恵

聞き手

華恵

はなえ

1991年アメリカ生まれ。6歳から日本に住む。2003年、12歳で『小学生日記』を刊行し、エッセイストとしてデビュー。NHK BSプレミアム「世界遺産~一万年の叙事詩~」でのナビゲーター、連載エッセイなど、幅広く活躍中。2014年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。