NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

N響が贈る芳醇なひととき

楽器紹介シリーズ

~ホルン~

 オーケストラを構成する楽器は、大きくわけて3つの種類があります。ヴァイオリンの仲間の弦楽器、管を吹いて演奏する管楽器、そしてティンパニなどの打楽器。今回はその中から、管楽器のひとつホルンについてご紹介しましょう。

 

起源は角笛

 ホルンは英語でhorn、イタリア語でcorno、フランス語ではcorといい、もともとは「角」を意味する言葉であることからもわかるように、その起源は動物の角を使った角笛だと考えられています。角笛は馬に乗って狩りに出かけた時、後ろの人に合図を送るために吹かれたといわれます(そのためにラッパ部分が後ろを向いています)。基本的にひとつの音しか出せないため楽器としては不完全なものでしたが、やがて、角部分に穴をあけたりしてメロディが吹けるような工夫が施されるようになります。例えば、ルネサンス時代に愛用されたツィンクは、木でできた笛に革を巻きつけ、穴をあけてメロディが吹けるようになっていました。

 角笛は、ヨーロッパから中東にかけて広く分布しています。これが管楽器に発展していったと思われますが、動物の角は大きさもまちまちで楽器にしにくかったため、加工のしやすい木や金属が使われるようになったと考えられます。

 

ナチュラル・ホルンとヴァルヴ付きホルン

 19世紀の中頃まで、ホルンといえば、ヴァルヴ(演奏中に管の長さを変えて音の高さを調節するための弁。現代のホルンはヴァルヴ付きが一般的)を持たないナチュラル・ホルンでした。これは半音が出せないため、特にバロック時代や古典派の初めの頃は、単純なメロディだけがホルンには与えられていました。そのうち、ベルの中に右手を入れ、それを開いたりふさいだりすることで半音または全音下げて演奏するテクニック(ストップ奏法)が編み出され、ぐっと表現の幅が広がっていきます。それに従い優れた演奏者も現れ始めます。モーツァルトが書いた4曲のホルン協奏曲は、すべて友人で優れたホルン奏者だったヨーゼフ・ロイトゲープのために書かれたもの。もちろん、ロイトゲープが演奏していたのはヴァルヴのないナチュラル・ホルンでした。

 19世紀のはじめにヴァルヴ付きホルンが登場すると、ナチュラル・ホルンは次第にヴァルヴ付きホルンに取って代わられるようになります。ヴァルヴ付きホルンは、何よりも安定して半音階を演奏することができるのが特徴でした。1897年にドイツのフリッツ・クルスペによってダブル・ホルンが発明されますが、これは、ヴァルヴを操作することでヘ長調と変ロ長調2つの調性を切り替えることができるもので、現在ではこれが主流の楽器になっています。

 

さまざまなホルン

 2つの調性を切り替えることのできるダブル・ホルンに対して、1つの調性だけをもった楽器をシングル・ホルンといい、現在ではあまり使われることはないのですが、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団では、ウィンナ・ホルンと呼ばれるシングル・ホルンが使われていることが知られています。これは、一般的なダブル・ホルンに比べて、よりナチュラル・ホルンに近い重めの音が出るのが特徴。ただし、演奏はとても難しいということです。

 ホルンという名前のついた楽器は他にも、イングリッシュ・ホルン、フリューゲル・ホルンなどがありますが、前者はオーボエの仲間の木管楽器ですし、後者はトランペットやコルネットに近い楽器です。また、18世紀から19世紀のヨーロッパでは、郵便馬車が到着を知らせるために使ったポストホルンと呼ばれるナチュラル・ホルンがありました。この楽器のために書かれた曲としては、モーツァルトの《ポストホルン・セレナード》(K.320)やマーラーの《交響曲第3番》が有名です。ただし、これらの曲では、現在では珍しくなったポストホルンの代わりにトランペットやフリューゲル・ホルンが使われることが多くなっています(ウィーン・フィルでは未だにポストホルンが使われているそうです)。

 

ホルンの名曲

 オーケストラの中では「華々しい活躍をする楽器」というイメージが強いホルン。ホルンのために書かれた作品の中で、もっとも有名なのは、やはり先ほどあげたモーツァルトの《ホルン協奏曲》でしょう。そしてホルン協奏曲の中でモーツァルトと並んでよく演奏されるのが、リヒャルト・シュトラウスの作品。リヒャルト・シュトラウスは、父親がホルン奏者だったこともあり、若い頃からホルンを用いた曲をいくつか作曲しています。ホルン協奏曲は2曲あり、《第1番》は18歳の若さで書いた作品。その正式なタイトルは《ヴァルトホルンと管弦楽のための協奏曲 変ホ長調》といいますが、この「ヴァルトホルン」とはドイツ語で「森のホルン」という意味で、一般的な「動物の角」を意味する「ホルン」と区別するために使われています。

 その起源から「狩り」と密接な関係があったように、ホルンの音色には確かに森や山の風景を思わせるところがあります。柔らかく、どこまでも伸びていくような音色が醸し出す心地よさを、ぜひ体験してみてください。

(室田尚子/音楽評論家)

 

オススメ・コンサート オススメ・コンサート

2015年6月12日(金)7:00pm  2015年6月13日(土)3:00pm
第1812回 定期公演Cプログラム NHKホール
モーツァルト/交響曲 第1番 変ホ長調 K.16
モーツァルト/ホルン協奏曲 第1番 ニ長調 K.412(レヴィン補筆完成版)
R.シュトラウス/ホルン協奏曲 第1番 変ホ長調 作品11
ラフマニノフ/交響的舞曲 作品45
指揮:アンドリス・ポーガ
ホルン:ラデク・バボラーク

 

 



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