NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

N響が贈る芳醇なひととき

奥深い交響曲の世界

 クラシックのコンサートでもっとも演奏機会の多いジャンルは、言うまでもなく「交響曲」でしょう。演奏の回数だけでなく、クラシック音楽のジャンルについて語るとき、最初に登場するのは常に「交響曲」です。交響曲は、クラシックのフィールドにおける代表選手なわけですが、その理由を考えてみたことはありますか?

 「交響曲こそがあらゆる音楽の中でもっとも偉大で、もっとも崇高な、絶対的存在だからである」という声がどこからかきこえてきそうですが、交響曲が、ほとんどの作曲家の創作の中心を占めているのは事実です。器楽の中ではもっとも規模が大きく、形式も厳格なこのジャンルに、古今の作曲家たちが最大限の努力と苦心を重ねてきたことを考えれば、交響曲がクラシックにおける「トップバッター」なのは当然かもしれません。

 

どうやって交響曲が生まれたか

 そもそも、交響曲とは、いったいどんな楽曲なのでしょうか。

 音楽用語としての「交響曲」の定義は、「オーケストラによって演奏される、複数の楽章からなる大規模な楽曲」。ポイントは、「オーケストラによって演奏される」=「器楽である」という点と、「複数の楽章からなる」という点です。

 ベートーヴェンの《第9》など声楽を伴った交響曲もありますが、もともと、芸術音楽の世界において、器楽と声楽は明確に分かれたジャンルでした。古典派の交響曲は、器楽、それも管弦楽によって演奏されるのが通常であり、むしろベートーヴェンの《第9》は、器楽曲である交響曲の世界に「声楽を持ち込んだ」という点が斬新であり評価されてきたのです。

 交響曲が器楽の1ジャンルであるというのは、その起源をたどってみるとはっきりわかります。交響曲とは、symphony(英)/sinfonia(伊)の日本語訳ですが、もともと「シンフォニア」とは、17世紀イタリアでオペラの序曲をさす言葉でした。それをオペラ本体から独立させ、1つの曲として演奏会で演奏するようになったのが、交響曲の始まりといわれています。

 ふたつめの「複数の楽章からなる」という特徴ですが、これも、17~18世紀のイタリア風序曲が、「急—緩—急」という3つの部分からできていたことからきています。序曲=シンフォニアが独立した楽曲になっていく過程で、この3つの部分がそれぞれ独立した楽章になっていったわけです。

 

「交響曲の父」ハイドン、そしてモーツァルト

 こうして生まれた交響曲は、18世紀古典派の時代に整備され、基本的なスタイルができあがりました。その成立にもっとも貢献したのがハイドン、そして彼に続くモーツァルトのふたりです。ハイドン、モーツァルトの交響曲の基本は4楽章でできていて、

 

第1楽章 ソナタ形式

第2楽章 緩徐楽章、第1楽章の近親調

第3楽章 メヌエット、主調(第1楽章と同じ調)

第4楽章 ソナタ形式またはロンド形式、主調または同主調

 

という構成をとっています。

 ハイドンは104曲もの交響曲を残していますが、その中には変わったタイトルがついた曲がたくさんあります。《驚がく》(通は「ビックリ」と呼ぶ)、《奇跡》(演奏中シャンデリアが落ちたとか落ちないとか)、《太鼓連打》(乱れ打ちってほどではありませんが)、などなど。しかしこうしたタイトルは、初演の場所や曲の特徴をニックネームとしてつけたものであり、いわゆるロマン派時代の「標題音楽」(タイトルの内容を文学や絵のように音で描いていく)とはまったく違います。

 

交響曲の革命児、ベートーヴェンとあとを継ぐ人々

 交響曲の歴史に9曲の金字塔を打ち立てたベートーヴェン。ナポレオンに捧げるために書き始めた《第3番「英雄」》、楽章のアタマに詩の一節をつけてその内容を音楽で描こうとした《第6番「田園」》は、作曲家が曲に副題をつけたいわば標題音楽的な作品で、交響曲のジャンルでは革新的なものでした。先ほど述べたように、交響曲に声楽をもちこんだ《第9番》といい、ベートーヴェンはまさに交響曲界の革命児といえるでしょう。

 「ポスト・ベートーヴェン」の代表格ブラームスは、4曲の交響曲を残しました。《第1番》を完成したのが43歳になってからで、これほど時間がかかったのはベートーヴェンの影響に苦しんだからだともいわれますが、第4楽章で出てくる「歓喜の主題」は、ベートーヴェンの《第9》に優るとも劣らない壮大な音楽です。

 純粋な器楽だった交響曲に、標題音楽の要素を持ち込んだベートーヴェンの影響は、ベルリオーズの《幻想交響曲》という大輪の花を咲かせました。愛する女性への思いに惑わされる芸術家の幻想を描いたこの曲は、交響曲という器楽が、言葉を一切用いずに独特の文学的な世界を表現した傑作です。その後ロマン派時代の交響曲は、タイトルをもった標題音楽的なもの、文学的な内容を表現するものが作られるようになり、またその中から、1つだけの楽章による「交響詩」というジャンルも生み出されました。

 

ハマると抜けられない?!交響曲「トラの穴」

 最後に、交響曲の世界における、ハマるとぬけられなくなる「マニア虎の穴」とでもよぶべき作曲家をご紹介しておきましょう。ロマン派交響曲最大の作曲家ブルックナー、そして世紀末最大の作曲家マーラー、の2人です。いずれも大規模な編成と演奏に時間のかかる曲が特徴のこの2人の「虎の穴」に入り込んだ人は、終わりのない「交響曲マニア」の道をひたすら歩き続けることになる……かもしれません。

 まだまだたくさんの作曲家がいる、奥深い交響曲の森。あなたもぜひ、この美しい森を散歩してみてくださいね。

(室田尚子/音楽評論家)

 

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2014年9月27日(土)6:00pm  2014年9月28日(日)3:00pm
第1789回定期公演Aプログラム NHKホール
モーツァルト/交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
チャイコフスキー/交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

 



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