NHK交響楽団
NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 

N響が贈る芳醇なひととき

オーケストラの定期公演について

~クラシック音楽をさらに楽しむために~

 あるオーケストラを聴きたいと思ったとき、たいていはまずホームページなどで演奏会の予定をチェックしますよね。そのとき目につくのが、「定期公演」の文字。ほとんどのオーケストラでは、シーズンを通して定期的に開かれる演奏会のシリーズがあります。オーケストラにとって、何よりも重要なこの定期公演について、今回はご説明しましょう。

 

モーツァルトも開いていた定期公演

 音楽史上、いわゆる「フリーの音楽家」として何の組織にも属さず、また誰にも雇われずに活躍した初めての人物、それがモーツァルトです。生まれ故郷ザルツブルクをあとにウィーンにやってきたモーツァルトは、生計を立てるために、演奏会を開いてそこで自分の作曲やピアノの腕前を披露し収入を得る生活を始めます。現代ではごく当たり前のそんな「フリーの音楽家」としてのあり方は、しかし、モーツァルトが活躍した18世紀には考えられないことでした。作曲家は教会や王侯貴族に雇われ、そのために音楽を書くというのが普通だったからです。

 さて、モーツァルトが開いていたこの演奏会ですが、まず有力な貴族や裕福な市民たちに名簿を回覧して予約者を募り、一定の人数に達したら演奏会を開く、という形をとっており、このことから「予約演奏会」と呼ばれていました。モーツァルトの予約演奏会の目玉商品は、なんといってもピアノ協奏曲。モーツァルト自身がソロを弾いたピアノ協奏曲で人々の注目を集め、その評判から作曲の弟子などをとって収入につなげました。もちろん、演奏会自体の収入もあり、一説には、1回の演奏会で現在の日本円にして700万円もの報酬をもらっていたそうです。このような演奏会の開き方が現在の定期公演の原型になったといわれています。

 

パリのル・コンセール・スピリチュエル

 しかし、この「予約演奏会」はモーツァルトが自ら思いついたものではありません。モーツァルトが活躍したウィーンにはそうしたシステムはまだ確立していませんでした。旅先で立ち寄ったパリで、モーツァルトはオーケストラが開催する演奏会という、近代的なシステムを知ります。それが、1725年に結成されたル・コンセール・スピリチュエルです。もともと、宗教音楽を演奏する団体として始まったル・コンセール・スピリチュエルは、パリのチュイルリー宮殿にあるスイス人百人ホールを本拠地とし、毎年24回の演奏会を開催していました。全盛期には2人の常任指揮者、50名を超える歌手、40名ほどの演奏家が所属していたといいます。

 定期的に演奏会を開くというシステムは、オーケストラの技術や音楽性を飛躍的に向上させました。モーツァルトはこのオーケストラから依頼を受け、《交響曲第31番ニ長調》、通称「パリ」を作曲しています。

 

現代の定期公演

 現代のオーケストラにとっても、定期公演はもっとも力をいれているコンテンツのひとつです。多くのお客様に楽しんでもらえるよう、シーズンを通してプログラムにも趣向を凝らす必要があります。例えば、一方に、誰でもいちどは聴いたことのあるような名曲を並べたプログラムがあれば、他方には、なかなか普段は取り上げられるチャンスの少ない珍しい曲が聴けるプログラムを配置する、といった具合です。また、それぞれのオーケストラには、ある種の決まった「カラー」のようなものがありますが、旬の指揮者やソリストを呼ぶことで、いつもとは違った化学反応が起こるのもまた、定期公演の魅力のひとつ。このように、定期公演は、いわばオーケストラの「顔」のような、いちばん魅力的なコンテンツだといえます。

 聴き手にとっても、定期的にひとつのオーケストラに接することで、そのオーケストラの響きの特徴や音楽性など、さきほど述べたオーケストラの「カラー」をより深く知ることができるようになるというメリットがあります。また、初心者にとっては、クラシックの「名曲」とされているレパートリーを定期的に聴けるのは、何よりも嬉しいことです。

 定期公演というと、何となく、クラシックをたくさん聴いている人が行くもの、というイメージがありますが、むしろ、この広大なクラシック音楽の森の入り口にさしかかった人にこそ、聴いていただきたいもの。年間を通して定期的に演奏会に足を運ぶことによって、クラシック音楽の魅力をよりいっそう感じることができるようになるに違いありません。

 

(室田尚子/音楽評論家)

 

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