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外国公演の記録

2004年ヨーロッパ公演

現地レポート|N響常務理事 加納民夫

7月8日|木|

ベルギー、ブルージュ:きょうも快晴、夕方から強い雨が降りました。

練習会場のブルージュ・コンセルトヘボウは10時に開場。早くから音を出したくてウズウズしていた楽員たちが次々と登場、ステージ上が照明の仕込みのため使えず、楽屋、リハーサル室はいろいろな楽器の音で満たされました。

アシュケナージさんは朝7時半ヘルシンキ発の飛行機で来場、旅の疲れも見せず、ピアノの練習に励んでいました。

午後2時30分からリハーサルが開始されます。楽員たちの拍手で迎えられたアシュケナージさんは、開口、「再びみなさんとお会いでき、一緒に音楽ができてうれしい。この楽旅が素晴らしいものになるようがんばりましょう。」とあいさつ、練習最初のショスタコーヴィチの「交響曲第5番」第1楽章の暗く陰鬱なテーマが、重厚なサウンドとして導き出されました。N響ではよく演奏されるこの作品、最初からかなり仕上がったサウンドが会場いっぱいに鳴り響きましたが、アシュケナージさんは、さらにディテールを詰めていき、短時間のうちに、より高いレベルの音楽にグレードを上げていきました。

ホールは近代的でモダンな多目的ホールで、反響板で囲まれるといった作りではありませんが、マイルドでバランスがよく、適度に響き、なかなか上質な音楽を聴かせてくれました。

練習は、その後、武満徹の「鳥は星形の庭に降りる」、ベートーヴェンの「交響曲第 4番」と続き、6時過ぎまで集中して行われました。

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7月9日|金|

ベルギー、ブルージュ:朝から曇りときどき雨で相変わらず涼しい、というより寒い1日でした。

ベルギー、ブルージュでの練習も2日目です。

きょうからNHKが委嘱したハイビジョンテレビ中継のスタッフも入り、いよいよ本番も近づいてきた感があります。テレビカメラはステージに4台、客席に3台、と全部で7台のカメラがセッティングされ、ベルギーのハイビジョン・プロダクション、アルファカムの意気込みを感じさせます。ただ、テレビ演出ということで正面反響板がブルーに染められたのにはびっくりしました。

楽員たちもホールのサウンドに慣れてきたようで、一歩一歩アシュケナージさんが要求する音楽の高さに近づいています。昨日は、多少緊張していた楽員たちも、きょうは余裕をもって練習にあたっていたようです。オーストリアのフィラッハで演奏されるマクスウエル・デーヴィスのソリスト、バグパイプ奏者のグンター・ハウクネヒトさんもベルリンから練習に参加、その愛嬌のある音色を披露していました。

きょう、私はステージ上から何枚かの写真撮影をしましたが、アシュケナージさんの厳しいながらも的確な練習に、ついついシャッターを多く切っていました。

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7月12日|月|

ツアー2回目のコンサートは、スロヴェニアの首都リュブリャナのカンカルエフ・ドムで行われました。今日も、会場いっぱいの聴衆を集め、成功裡に終わりました。

スロヴェニアは人口200万人で、北はアルプス、南西はアドリア海、南東はパンノニア低地に接し、国土の半分以上が森林に覆われた、緑の宝庫として知られています。また、ローマ帝国時代からの伝統を誇るワイン製法により、おいしいワインを作り出しており、いま、静かなブームも起きています。そのスロヴェニアの首都リュブリャナは、古くから栄えた都市で、古代、中世、ルネッサンス、バロック、そしてアールヌーボと、各時代に建造された建物が現存しています。リュブリャナに本拠地を置くスロヴェニア・フィルハーモニーの結成は1701年と古く、ハイドンやベートーヴェンが会員として名を連ねています。リュブリャナはスロヴェニアの経済的な中心地というだけでなく、近郊諸国とのビジネスの中心としての顔も備えています。

そうした経済的にも発展を遂げつつあるリュブリャナでのコンサートは、40年の歴史を刻む「リュブリャナ音楽祭」の中でも、2004年の注目イベントに位置づけられていました。武満徹の「鳥は星形の庭に降りる」では、タケミツ独特の幻想的な雰囲気を静かに楽しんだ後、ジュリアン・ラクリンの魅力的なヴァイオリンに、ここでも第1楽章終了から拍手が沸き起こりました。曲が終ってからのアンコールは、きょうは、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」からが演奏されました。

20分間の休憩時間をはさんで、後半のショスタコーヴィチの「交響曲第5番」では、アシュケナージさんのスケールの大きな解釈とNHK交響楽団の緻密なアンサンブルにホールに集まったお客さんは、酔いしれたようでした。演奏が終ると、客席のあちらこちらから「ブラボー」の声がかかり、また大きな拍手が会場に響き渡り、あたたかい拍手に包まれたコンサートでした。アンコールのショスタコーヴィチのバレエ音楽「黄金時代」からの「ポルカ」は、「交響曲」にはないウィットに富んだ音楽で、聴衆からは笑い声も出ていました。

一行は、本日11時(日本時刻18時)にホテルを出発、バスでオーストリアの西部の山の町フィラッハに向かい、ここでコンサートを行います。

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7月13日|火|

ツアー3回目のコンサートは、オーストリアの南西部、スキーリゾートで知られるフィラッハで毎年開かれる「ケルンテンの夏音楽祭」への出演です。会場には、ヨーロッパ各地から避暑で訪れている音楽ファンでいっぱいになりました。リュブリャナをバスで出発した一行は、スロヴェニアが5月にEUに所属したため検問も無くなった国境を越え、アルプスの真下に掘られた長いトンネルを抜けて、静かで落ち着いた山の町フィラッハに入りました。フィラッハはオーストリア南西部に位置するケルンテン州の町です。「ケルンテンの夏音楽祭」は長い歴史と充実した内容の音楽祭として知られており、これまで、NHKからもFM放送を通じて紹介されてきました。「音楽祭」は高級避暑地に逗留するお客さんを主体とするため、ロビーは一種の社交の場、外交の場ともなっているようです。しかし、それだけに耳の肥えた聴衆が多く、N響にとっても正念場でした。アシュケナージ氏が描く高いレヴェルの音楽を演奏し、あたたかい拍手に包まれました。

1曲目のマクスウェル・デーヴィスの「オークニーの結婚式」はバグパイプをあしらった楽しい音楽ですが、オーケストラとバグパイプという珍しい組み合わせに、聴衆は喜んでいました。作曲したマクスウェル・デーヴィスも来場しており、バグパイプのグンター・ハウスクネヒトとの好演に満足していました。

2曲目のチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」では、ソリストのジュリアン・ラクリンとの掛け合いも息がぴったりと合い、聴衆を魅了していました。きょうのソリストのアンコールも、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」からが演奏されました。

20分間の休憩時間をはさんで、後半のベートーヴェンの「交響曲第4番」では、アシュケナージさんの定評あるベートーヴェンの解釈をN響は忠実に演奏、耳の肥えたお客さんたちを満足させました。アンコールは、先週、現職で亡くなったオーストリア大統領への追悼の言葉をアシュケナージさんがドイツ語で述べたあと、純オーストリアの作曲家シューベルトの「楽興の時」(NHKラジオ第1放送の長寿番組「音楽の泉」のテーマ音楽でおなじみ)を演奏しました。

一行は、本日13時(日本時刻20時)発のチャーター便で、クラーゲンフルト空港から空路ドイツのハンブルクに飛び、その後バスで北ドイツの港町キールに向かいます。

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7月15日|木|

「NHK交響楽団海外公演」4回目のコンサートは、ドイツ北部シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の州都キールで行われました。キールは、バルト海と北海を結ぶ運河の起点に位置しており、向かい側はデンマークという、北欧への玄関口でもあります。第2次世界大戦中には、ドイツ海軍の潜水艦いわゆるUボートの基地が置かれていたことでも知られています。

このキールやリューベックで毎年夏に開かれる「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」は1986年に始まりましたが、招待される音楽家たちの質の高さで知られており、北ドイツ放送協会(NDR)の録音によりNHK−FM放送などでもいくどとなく紹介されてきました。今回は、NDRラジオによりコンサートマスターの堀正文、篠崎史紀の2名にインタビューが行われ、演奏会直前に放送されました。

名門音楽祭だけに、地元だけではなくベルリンやハンブルクからのお客さんもおり、また、「音楽祭」の一連のコンサートを聴くために長期滞在をしている人もいました。会場のキーラーシュロスホールは1964年に建てられた古いホールですが、音響的にはバランスがとれ、落ち着いた音を提供してくれました。

冒頭、この「音楽祭」の総裁ロルフ・ベックさんがステージで「NHK交響楽団歓迎」のメッセージを述べられ、コンサートが始まりました。このように、総裁自らステージに立つのは珍しいことだそうです。1曲目の武満作品は、洋楽器による演奏にもかかわらず独特の日本の香りが漂い、会場の雰囲気を一気に日本の空間に誘いました。2曲目のチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」では、ソリストのジュリアン・ラクリンの若さ溢れる中にも真摯な演奏に、会場も喜んでいました。きょうのソリストのアンコールも、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」から「ガヴォット」でした。20分間の休憩時間をはさんで、後半のショスタコーヴィチの「交響曲第5番」は今回の公演の中でも最も安定したいい演奏で、曲が終るや否や、会場のあちらこちらから「ブラボー」がかかり、盛大な拍手で包まれました。そうしたお客さんの拍手に応え、ショスタコーヴィチの「黄金時代」からポルカ、それにシューベルトの「楽興の時」の2曲をアンコールとして演奏しました。

一行は、本日12時00分(日本時刻19時00分)発の飛行機でハンブルク空港からオランダのアムステルダムに向い、本番前の練習を行い、コンサートにのぞみます。

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7月16日|金|

「2004年NHK交響楽団海外公演」最終回は、オランダの首都アムステルダムのコンセルトヘボウで行われました。このホールは、1888年にコンサート専用ホールとして創立され、直後に結成されたアムステルダム・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地となりました。以来、名指揮者やソリストたち、そして一流オーケストラなどが演奏しています。NHK交響楽団も、2001年8月に当時の音楽監督シャルル・デュトワさんの指揮で演奏、評価を得ました。コンセルトヘボウは、最近のホールに比べてバックステージや楽屋設備の使いかっては必ずしもよくありませんが、それ以上に豊かでバランスのとれたサウンドは特別なものがあります。客席は1964で、今回の海外公演会場の中では最も大きなホールでしたが、ほぼ立錐の余地がないほどお客さんが来てくださいました。前日に行われたサンフランシスコのオーケストラが40%程度の入りだったそうですから、喜ばしい限りです。

客席は、1曲目の武満作品から興奮していました。当地では武満作品の演奏頻度が必ずしも高くはないようですが、名演奏を聴き続けてきた耳の肥えたお客さんたちに、「日本の風」を充分味わっていただけたようです。

2曲目のチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」では、ソリストのジュリアン・ラクリンさんとの息もぴったりと合っていました。アンコールにラクリンさんはイザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番」からを演奏しましたが、彼の完璧なまでのテクニックとそれに裏打ちされた音楽性豊かな表現で、大きな喝采を浴びていました。

20分の休憩後は、昨日と同じくショスタコーヴィチの「交響曲第5番」を演奏しましたが、楽員の気力も一層充実、アシュケナージさんの目指す音楽に十二分に応えていました。特に、第3楽章の静かでメランコリックな、そして緊張するまでに美しいメロディと、第4楽章の勝利と人間賛歌へのファンファーレの豊かなコントラストは見事で、会場いっぱいのお客さんたちを大きな感動と興奮の世界に誘っていました。スタンディングオベーション、そして割れんばかりの盛大な拍手に応え、ショスタコーヴィチの「黄金時代」からポルカ、それにシューベルトの「楽興の時」の2曲をアンコールとして演奏、お客さんたちは興奮の余韻を残して帰宅されました。

一行は、本日20時15分(日本時刻18日午前3時15分)発の日本航空便で帰国の途につきます。

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